バスケの後半戦、MVPの皐が出た瞬間に、耳がおかしくなるような歓声が響いた。
耳を塞ぐのがおそかったらやばかったかも知れない。
「皐の人気こえぇ」
呟いた俺の声をきいた恭治がへらっと笑った。
「こわいよね〜。でも一番怖いのは…」
恭治の言葉の続きは聞こえなかった。
再び歓声が上がったから。
「どうして此処で、騒ぐんだ??」
「んー…さっちゃんとなっちゃんが二人でいる事が大事なんだと思うよ〜」
「…なんで?」
「うん、すけちゃんそーちょーには解らない感覚だと思うよ。あと…うん…そう、まぁ…さっちゃんとなっちゃん、だから」
何か何時も以上に微妙な回答だなぁ。
今日のお昼前に何か違うなぁと思ったんだけど、今は別にその感覚がない。
でも、今度は恭治の様子に、何かが違うなぁとおもってる。いつもはもうちょっときっぱり言うんだけど。
何でだ?
ま、俺は深く考えない。
試合が始まる。だるそうにドリブルをする晃二が素早く動き始めたあたりから、怒涛の展開ってやつが始まった。
早い早い。あっという間に皐がシュート。
前半戦じゃ、会長の邪魔しかしてなかった晃二が、攻める攻める。出し惜しみか?とか思ったりもしたが、後半戦の最初、会長いなかった。
代わりに入ったやつだってウマイのに、晃二は敵ではないといわんばかり。
それにしても、何でもでき過ぎじゃね?晃二。
「晃二に弱点とかねぇの?」
「あるよー性格、ちょー悪いじゃん」
それは弱点…なのか?
「でも、友達たくさんいるだろ?」
「…性格悪いけど、そこまで悪いってことは友達にはしないし、ウマイんだよねー面白いし」
確かに晃二は面白い。
それに、性格悪いっていっても、ああ、あいつだし仕方ない程度で終わることしかしないもんなぁ、晃二。
恭治の言うとおり、何かウマイ。
「けど、ちょー悪いよ。…解っちゃ駄目なんだけど、きっといつか、そーちょーもわかるよ」
「そうなのか」
イマイチ頷くことができない。
コートに視線を戻すと、点の入れあいは激化していた。
息つく暇もない試合とかいうんだろうけど、なんか恭治との会話で気持ちは別なところにいっていた。
「…恭治、夏休みどうするー?」
「んー…?とりあえず家かえったりとかー、溜まり場いったりとかするー」
「金持ちなんだろ?別荘とかいったり、旅行とかしたりしないのか?」
金持ちってさぁ…海外いったり、別荘行ったりしてるイメージあるよな。
「んー別荘飽きたしぃ、旅行気分じゃない…」
「…羨ましい話だな、おい」
「あと、別荘にも旅行にも、そーちょーも、さっちゃんも、とーやも遼もいないから、俺、溜まり場がいー」
ふにゃっと笑った恭治の頭を思わず撫でた。
だって、別荘とか旅行とかより俺らといたいってことなんだろ?
「皆で旅行なら行きたいなぁ」
「そんな金ねぇよ」
「そうだよねぇ。出すよとか言えるんだけどーそれはちょっと違うって遼が怒るから〜」
昔、気の遠くなるような額をポンっとだそうとしたことがあったんだよな、恭治。
金銭感覚がおかしいとまず、十夜に怒られて、そういうのはちょっと違うからって遼にも怒られてた。
でもさ、ここに通ってるってことは皆おぼっちゃまなんだから、金銭感覚一緒なんじゃねぇの?ってちょっと思うんだけど。
あ、でも、十夜は一緒に居て、結構庶民的な感じがあるな。
たまに大きな買い物してるけど。
「海くらいならいけるぜ。あと、俺、尚ん家いくことになってるけど、恭治も行くか?」
「尚ちゃん家?うーん…尚ちゃんのお家は…あー…そーちょーがんば!」
え、何、やっぱ、髪すげー弄られたりすんの?
あれ、血なの?…こえぇえ…。
今から断ったら駄目、かな…。
俺が眉間に皺までつくって悩んでいると、何度目かしらないけれど、すげー歓声がきこえた。
会長が再びコートに出たらしい。
そのとき晃二と交代で遼がコートに戻って、尚と渋谷が交代した。
そう思えば、緑に青に赤に金に黒と、コート内は髪の毛がすごく戦隊色だ。金は黄色と思えばいいけど、ピンクとか白がいなくて、女の子がいないのはとても残念だと思う。すごくどうでもいいことだけれど。
晃二が頑張ったお陰で点差が開いている。このまま押し切れば生徒会チームは負ける。
だけど、スリーポイントシューターがそれを阻止するかもしれない。
生徒会が目立ってみえるけれど、ミヤちゃんとかもすげぇいい動きをする。
グリンだよのしゅうちゃんにすげー邪魔されてるけど。しゅうちゃんは喧嘩もそうだけど、しつこく邪魔して何気に攻撃してくる。本当にやっかいなやつである。でも、ちょっと照れ屋なので、憎めない。
「これ、どっちが勝つと思う?」
「MVP・役員候補組」
「なんで?」
「…せいとかいちょーが策士だから」
生徒会長がサクシでなんで、そっちが勝つんだ?と思って俺は首をかしげる。
でも、結果は恭治が言うとおり、MVP・役員候補組の勝利だった。
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