『ちょとつもーしん』で『直情型』周りが見えないことが多々あって、思い込みも反省するまでは激しくて。
ソレが俺だ。
だからって、ソレがすべてに通じるほど上手いこと世の中はまわってない。
そう人だからしかたないよ。とか、悪い人ではないんだよとか。
それだけじゃ終わらないこともたくさんある。
俺や、俺に対する反応がそうであるように、他の人だって、『たくさん』あるのだと、知っていたはずなのに、今、どうしてこうなっているのだろう。
思い返して、気分が暗くなる。
それでも、おかしなことだと思ったのだ。
だからこそ、言ったのだ。
そう、だからこそ。
夏休みに入って何週間か。とりあえず、半分はすぎたくらい。
一日目から尚の家に連れて行かれ、尚は俺をそこに放り込むと、『家のこと、やっといてくれ。やりたくねぇなら、ユキ兄つかってくれ』といって、バイトを探しに出かけた。
俺と尚を出迎えた真っ白な髪で、ぼんやりとした様子の尚の兄貴が、尚の荷物を受け取ると、俺にこういった。
「俺の名前、きいてっか?」
「……」
説明を受けたとき、外見とかは聞いてないから誰かはわからないけれど、とりあえず、ユキナオではない。
まずそうな顔をした俺に、一つ頷くと、尚の兄貴は名前を告げた。
「蛍雪(ケイセツ)。尚より四つ上の兄だ。俺はだいたい寝てっから、気にせず、今から案内する部屋使ってくれ。幸直と知り合いらしいし、あとは幸直に聞いてくれ」
言い切ると、俺を客室に案内、放置をした。
此処にくる前に、実家で客扱いされるかもしれないといった俺は、此処にきて、客扱いをされるどころではない扱いをうけていると気がついた。
家のことやってくれとか。お手伝いさん扱いじゃないか?しかも、待遇がすこぶる悪い。
俺が客室でどうしていいやら解らず、ぼーっと座っていると、急に騒がしい音が飛び込んできた。
どころか、客室のふすまを勢いよくあけられた。
「総長、マジでかー!!」
そこに見えるのは見慣れたプリンになった金髪よりも痛んで色の薄い金髪の野郎だった。
「ユキナオ、お前マジで、尚の兄弟だったのか…」
「マジだ、総長マジでいるわ!尚が連れてくるって言ってたけど、マジだった!てか、おう、尚のお兄様ですぜ!敬え、総長!」
礼儀もクソもねぇのりだけれど、俺に尊敬の念はあまりないユキナオらしい態度だった。
「いや、尚の兄貴なら余計遠慮ないわ」
「えー。尚すげくね?おれの自慢の弟なんスけど」
「んーいまいち」
「いまいちかー…いや、そっか、総長のまわり皆すげーですもんね。水城さんとか」
十夜しか名前は出てこなかったけれど、集まって喧嘩でもしようものなら俺を取り囲む連中のすごさは半端じゃねぇーし。幹部に近いとかいわれている、ユキナオは当然のようにそれを知ってる。
俺がいまいちと言ってしまうのも仕方ないって思ったんだと思う。
実際のところ、俺の周りを囲む連中も確かに凄いのだけれども、そいつらさえも普通と言ってしまえそうな連中がたくさんいるせいで俺は、尚をすごいとは思えない。
あと、身近すぎるんだよなー尚は。
「あーてかさ、ケイセツさん?すごいなー。なんかいう前にここに置いてかれた」
「お、此処通したのセツ兄なの?ふふん。俺の兄弟は皆すげーよ。セツ兄もケイ兄も。自慢の兄弟っすよ!」
そのあとのユキナオの兄弟自慢によるとこうだ。
ケイセツさん、ケイジョウさんはAP学院という俺や尚が通う学園の近くにある学校の卒業生で、ケイセツさんはなんと、学校近くのチームリーダーもしていたらしい。あんまり噂に上るようなことをしていたチームでは無いそうなんだが、それを馬鹿にした連中は潰されてしまったらしい。
ケイジョウさんは皐の所属するバンドのリーダーで、十夜の髪を染めているのもケイジョウさんらしい。十夜とケイジョウさんの予定があまり合わないから、十夜がプリンになってしまうこともよくあるらしい。
「十夜、自分で染めたりとかしねぇのかな」
「さぁ…俺もよくしらねぇし、ケイ兄に聞いたら笑うだけだし、十夜サンにきいても、微妙な顔するだけだし、セツ兄にきいたら一応答えをもらったんだけど、『気持ちの問題』だとかで…意味わかんねぇーし」
ユキナオの言うとおり、意味が解らない。
けれど、球技大会で尚が十夜の髪を染めたいといって、十夜が断った理由がわかった。
十夜は、あの頭髪マニアに髪を触られるのがいやで断ったんじゃなかったんだなー。
それで、兄貴がどうたらいってたのか。
「ふーん。ま、いいや。それより、尚に家のことどうとかいわれたんだけど」
「あ、今回のお手伝いは総長なのか。よし、頑張ろうな、総長!」
何が?と聞く前に、ユキナオはニコニコしながら、俺の肩をポンとたたいて説明してくれた。
「俺んちさ、親父と兄貴たちと、俺と尚がいるんだけどさ、親父は仕事でいっつもあっちこっちいってんのね。ケイ兄もバイトと趣味と大学で、あっちこっち行ってんだ。そうなると家のことすんのはその他の家族…なんだけど、俺と尚が小さいうちはケイ兄とセツ兄が家のことやっててさ。セツ兄は世話好きだからすっげー家のことやってくれてたんだよ。で、俺も尚も、夏休みくらい休ませてやろうって、夏休みはさー俺と尚が家のことやることになってんだけど、尚は金のかかる学校行くことになったから、奨学金もらっていってるけど、返さなきゃいけない奨学金だからっつって、休みの間はツテ頼って仕事したり、年齢誤魔化したりしてバイト行ってんの。だから、やすみの間、尚の代わりを連れてくるのが普通になっちゃってるんだ」
いい話なんだけど、それって、俺を生贄に捧げたとかそういうことなのか?
何も説明されてないぞ、おい。
「去年は恭治さんだったけど、家のこと、最初なーんもできなくて、セツ兄が教えて、最後には凄いエキスパートかという働きをみせてたから、大丈夫だからさ!」
すごく怖くなってきたんだが、もしかして、ケイセツさんスパルタとかしたんだろうか。
恭治、ここに来ることこっそり拒否った気がする…。
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