生徒会のメンバーはとても濃い。
濃すぎる。
風紀委員会も濃いが、生徒会はそれ以上だ。
風紀委員に漏れず、生徒会役員も美形の集まりだ。
生徒会長、副会長、会計、書記、生徒会補佐…全員がモデルクラブもびっくりな美形ばかり。
会長は高雅院雅(こうがいんみやび)高校三年。雅という字が二つ入った会長様は、雅やかというよりは粗野。やることなすこと大雑把で乱暴。繊細さがまったく無い。ゴーイングマイウェイなやつだ。だがやることはやるし、いいやつなので、美形ということをぬいてもこの学園では人気者。頭脳明晰運動神経抜群、家柄もよければ人柄もいい。性格は…ちょっとまぁ、俺様といえなくもないが。
副会長は那須龍哉(なすたつや)…俺の兄のたっちんです。 姿形が明らかに悪い男。眼鏡はちゃんと度が入ってるのがせめてもの救いな、性格の悪い男である。俺とは性格の一部以外まったく似てない。何故なら、お互い連れ子の兄弟だから。だからといって仲が悪いということも無い。むしろいい。というか悪友である。特権欲しさに生徒会に入るために色々手を回すようなやつで、この学園に入った理由も奨学生特典が美味しいから。守銭奴のお兄ちゃんです。
そんな悪い男に引っかかったのは兄よりも濃い男、会計、橋上智樹。彼は、ただの腐男子だと主張しているが、そんなことはない。生徒会という美形集団に入って、近くで王道を観察するために、王道会計無口君を演じてやる!と言い切った隠れオタクだったのだが、いまや隠れる場所もないオタクである。もれなく美形なのは、もとがよろしかったことと、隠れるために身なりを整えたためだ。たっちんに引っかかってしまったが故に隠れる場所がなくなったオタクではあるが、現状を楽しんでいるため、それでいいんじゃないかなとは思う。
書記は織田嘉一(おだかいち)ぴっちぴちのシックスティーンってのが本人談。間違えてないが、選ぶ言葉が間違ってる。楽しいことが大好きなチビッコで、イベントごとを任せれば確実に楽しいイベントにしてくれる。所謂残念な美形で、しゃべるとただのお祭り騒ぎ。双子の弟がいるんだが、全然似ていない。二卵性双生児だそうな。
その弟が生徒会補佐の織田喜一(おだきいち)。はしゃぐ兄を抑えて見守ってきたせいか、苦労性で、ため息がよく似合う。時には仕事を放棄しようとする兄を宥めすかし、最終的には拳骨で黙らせ、兄のかけた迷惑をなんとかするために生徒会の仕事に従事する姿は涙を誘う。生徒会役員の皆に愛されている。あのたっちんでさえ、たまに差し入れをやるくらいの苦労ッぷりはみていてかわいそうだが面白い。
そんな生徒会役員さんが、本日は、たっちんの部屋で賭けUNOをしていたら、副会長の弟というだけの俺はどうすればいいのでしょうか?
アンサー。とりあえずUNOに混ざる。
「リバースリバースリバース」
「コウ、お前、なんでそんなに英字持ってんだ?つうか、俺をそんなにのけ者にしたいのか?」
配られたときからリバース、ドロツー、スキップが揃っていたが、カード引くたび英字では座っているお隣さんに攻撃するしかあるまいよ。仕方ない。
「俺も出すカード無いし…」
俺のもう一人のお隣の橋上が渋々カードをひく。すまんな、俺の今日の英字ひき率は素晴らしいものがある。
「早く終わらせろよ、つまらんだろう」
早々にUNOから抜けてしまった兄上様は、上から皆の持っているカードを見ながら、ぬけぬけと申された。
「うっせ、ばーか、うっせ!」
涙ぐみながら手をシッシ…とカイチくんがふった。最初から何故かカードが出せていない。引くカード引くカード赤であり、今のところカードが赤くならないことから、赤のカードしかもっていないことが伺われる。俺もわざと赤にしていない。確信犯、めーんごー。
カイチくんが再びカードをドロー。今度は黄色だった。良かったね。今緑だけど。
「カイチ…」
何か可愛そうになったんだろうね、お隣のきー君が札を赤に変えてくれた。
会長は難なく赤を出した。
…ふ、残念だったな、双子よ。
「ウノ」
俺は赤でウノだぜ。
「ば…兄弟で上がるとか許せねぇ!」
と、会長が言ったところでもうおそい。英字か同じ数字が発動しない限りは赤。そして今は皆赤が多い。
何故なら、今まで赤が出なかったから。
「うわーだしたくない…」
といいながらも赤。
「なんで、黄色が違う数字なんだッ!」
ってうなだれても赤。
「あ、会長すみません」
って出した色も赤のスキップ。
俺の天下だったねぇ。
「はい。あーがり」
そして那須家の次男は二着になるのでした。
「ビリだけはいやだ」
と、再び違う色に変わってからは早かった。
今回の賭けUNOはビリがジュースをおごるルールになっている。菓子は、ここにきた時点で生徒会連中が持ち寄っている。仲良しさんだねぇ。
「ところで、橋上くん、転入生はみたかね?」
「みてない…てか、見たの?ねぇ、見たの?見たんでしょ?そうでしょ?そうなんでしょ!」
解ってるなら何度も聞かずとも。
思いつつも頷くと、橋上くんガッツポーズ。UNOからも同時にあがる。
「ひゃっほう!これで、転入生はもれなく有名人に総当り、うっかりコウちゃんの変装も大衆にばれてうっかりらぶすとーりぃいい!」
「はっはっは。ないない」
「ないだろな」
ワザとらしい笑いを浮かべた俺と、橋上くんの後ろから手札を見ていたおにーたまが同意してくれた。
「…デスよねー、コウちゃんのうっかりラブストーリーは今更ないよねぇ〜。あ、でも、総当りはあるでしょ」
「あ。それなら。今日、俺の部屋で風紀とさっちゃんとで囲んでたから、いけると思う」
「なん…だと…!?俺の見えるところでやれよ馬鹿ッ!でも、いい仕事です。ひゃっはー!てか若干うらやましいてかかなりうらやましいぞ、てんにゅーーーーせーーーー」
「なんだ、また何かあるのか」
騒がしい会計様に声をかけたのは、熾烈の戦いを勝ち抜いた生徒会長さま。ってことは今双子の戦いかな?これは、カイチくんがビリだな。
「あるある。今回こそ本当の『王道』転校生」
「あーあのもっさりか。興味ないんだが」
「ちょ、会長、ちょ。興味もってぇ!茨道でいいけど、会長興味もってぇ!」
「知らん。俺は今、生徒会の仕事と学園内ライブで忙しい」
会長の言葉に、会計は過剰反応した。
副会長はああ、と頷いて、書記が肩をがっくりとおとした。
…どうやらビリに決定したらしい。補佐が一安心したような顔をしていた。
「すんの?!ライブあんの!?ちょ、なんで早く言わないの!?チケとんの大変なのよ!?もちろん、さっちゃん様、唄うよね!?」
会長に詰め寄る橋上。必死です。
学園内ライブ…軽音楽部主催のライブなのだが、これが生徒に絶大の人気を誇っている。
ダフ屋すらいるくらいの人気で、熱狂的なファンがいて、当日は警備員を募るほどの大変なイベントでもある。
もちろん警備なんてするつもりのない俺は、チケットさえあれば人ごみに押されて見に行くこともできる。
…の、だが、俺はチケットを持っていても客席にはいかない。
「チッ、だから言いたくなかったんだ。チケとりは俺ですら大変なんだぞ」
つまり、ライバルを増やしたくなかったらしい。
普段はなんだかんだともてはやされる生徒会だが、このイベントを楽しみにしている一生徒でしかない。
有名人ゆえに、他の生徒と違う席に座ることになるのだが、それでもその席数は限られる。
「えーでも完全なる運じゃん。あれ」
それこそ先着順などしていたら、生徒が殺到して大変だ。という理由で抽選になっている。
しかもパソコンソフトによるものだ。
「気持ちの問題だ」
確かに、気持ちの問題であると思う。
「こうちゃんはいくの?」
がっくりと項垂れているカイチくんに止めを刺すために、各メンバーが欲しい飲み物を書いたメモを渡す兄を見ながら、首を横に振る。
「人多いし、さっちゃんが、そでのが嬉しいつってたから」
そで…とは舞台袖だ。俺はいつもそこで待たされる。
何を?って、さっちゃんを。
さっちゃんこと灰谷皐は、軽音部部長にして神だ神だとあがめられる歌声の持ち主だ。
知っての通り、俺はそれの愛人なので、チケットをご本人様から頂ける。だが、本人はむしろ俺を舞台に引っ張りあげたい…けどそれをするのも嫌な気がする…らしいので、袖で待っていて欲しいらしい。
「あー羨ましい恨めしい!なんで、そんなに愛されてんの!?萌えるけど!萌えるけど!!畜生!」
がっくがっくと俺の襟首をひっつかまえ揺らす、橋上くんはどうしても男前。楽しげに横からそれを止めた兄は、カイチくんをイジメきったらしい。
カイチくんの隣で、きーくんが肩を叩いて慰めている。どうやら二人で飲み物を買いにいく運びになったらしい。
お気の毒様。
「大丈夫、橋上くんは、おにーさまに、愛されてるから、ほら」
「当ったり前だろォ!それとコレとは別バラだろ!?」
兄上はデザートのようですよ。
こんなに揺さぶられてもずれもしないヅラがとてもすばらしい。もうすでに第二の頭皮ではないだろうか。
橋上くんの台詞に、嬉しそうにする前にもう一回止めてくれないかね、たっちん。
「そろそろ止めないとヅラが落ちるかもしれないぞ、橋上」
「あら、そりゃ駄目だ」
急に手を離す。
橋上くんいわく、このヅラはもっと作為的に偶然的にとれないと意味がないらしい。おい、どっちだよ。
「やっぱさー、このヅラと眼鏡がとれたら美形系なんでしょ、こうちゃん」
兄に問いかける橋上くんはなんだかんだ、生徒会役員で一番強い気がする。あの性格の悪い兄すら霞んで見え、生徒会長すら彼を止めるすべを知らない。双子にいたっては、どうしていいかすらも解らないらしい。
「美形…というよりは、オシャレ全面押し出しというか。オシャレすぎて悪目立ちだ。社会人になれるかを本気で心配してしまう感じだな」
弟に対しても評価が辛いです、お兄様。まぁ、本当のことだからへこまないし、気にしない。
昔、駅前で待ち合わせていて、やってきた友人に『一人パリコレか?』って言われたのを俺は一生忘れません。その場で肩で風切って、くるりとターンして、無駄にウェオレットチェーン振り回して格好付けてやったわ。
「オシャレってことは無自覚なしじゃん。ちゃんと自分のこと分かってるんじゃん。これだから…!」
いわれのない八つ当たりされました。実害ないからいいんだけどね。つか、逆に面白い。ワザとらしい八つ当たりだ。
ここにくると俺すら薄い気がするね。
さっちゃんがちょっと恋しいです。
橋上くん、ハンカチかまなかったし。