そうやって、なんかいつもより楽しいかもしれない夏休みを送ってた。
夏だし、あちーし。
吹っかけられない限り喧嘩もせず、仲間と駄弁るだけ。
バイク走らせんのは、山で、走り屋と交代制。
毎日はしないし、週に二回くらい。
最近じゃ、俺もあんまりこっちにこれなかったし、週一になってるらしい。もう族ってか、バイクがちょっと好きなチーマーっぽくなってきてるなんて冗談もでるくらいだ。
そこに変化が現れたのは、溜まり場が開放されて一週間。
何故か学園の有名人がそろいもそろって、店にいたときから始まった。
一部の集団は龍哉と賭けカジノしてるし、久々にみる皐は何故か店にいる晃二にべったり。
その晃二はグラスを磨いていて、近くで輝く双子が軽食なんて作ってる。
生徒会長は天の古株と話してるし。
ここに尚とか渋谷とか侍とかいてもおかしくない雰囲気だなと思っていたら、買出しにいっていた三人がもどってきた。
全員集合かい!
「何、なん…」
「あ、総長。店長が休みの間の一週間、このメンツでお店のことしてもらいますから」
十夜が何気ない調子でいった。
俺は驚きでどうしていいか解らず、口をパクパクさせた。
いつも俺を少年と呼ぶ晃二は、にこっと営業スマイルを浮かべた。
「篠原さん、よろしくお願いします」
鳥肌が立った。
時と場所と状況だっけ?
それに合わせたというか、店員だったらそういう態度なんだろうけどさ…。
と思っている間に、晃二にひっつく皐に、天の連中が何か言い始めた。
何故皐が晃二にくっついてるのかだとか、総長の特権じゃなかったのかとか…。
特権なわけねぇじゃん!勝手にくっついてくるんだって!
しかも俺にじゃれつくときとはまったく違って、晃二に何かいおうとした奴らを牽制している皐に、連中は何か不満げだ。
なんかさー…学園ではそれが普通だったし、俺もくっつかれたりするから、何かそういう不満そうとかいう理由もちょっとわからなかったりするんだけど。
だからさ、気にいらねぇし、ちょっとボコろうかとかいうのも、憧れのあの人に気安すぎねぇか、こいつってのも気がつかなかったわけで。
いくら今、すごく穏やかとはいえ、仲間が大事で上の人間が絶対みたいな奴らの中に、いきなり他人が入ってきて上の連中と仲いいうえに、必要以上に特別扱いなんてされたらいい顔なんてしないというのもあったのかもしれない。
よくはわからない。
原因は何処にあったとかよくわからない。
俺も集会に最初から最後までいるわけじゃないから。
けれど、次の日、俺は晃二につっかかる連中を見た。誰かが何かいう前に、晃二は上手いこと言い包めてその場を収めてしまったけれど、その次、晃二が絡まれていたとき、皐が傍にいた。
皐は何も言わなかった。怒っていたようだけれど、睨むこともしなかった。
晃二がどうにかできることを知っていたから動かないんだということを俺は知らなかった。
そして、俺はその現場に口を出した。
「ちょ、お前らなにやってんだよ」
そういうだけで、晃二に絡んでいた連中はすぐ静かになった。
後で、そんなことはしないほうがいいと十夜と遼に言われた。何で?と聞いたら、説明はしてくれたけれど、納得いかない気持ちであった。
でも、俺が晃二をかばったことが悪化した原因だというのを後で知った。
その次の日、カフェの店員が帰ってくる一日前。
皐がいつになくキレていた。
俺はやっぱり、止めに入ろうとしたんだ。
したんだけど。
晃二が何もせずその様子を眺めていることに、また違和感を感じたのだ。
夏休み前に、感じた違和感。
皐は晃二が好きで、晃二は皐が好きじゃないんだろうか?
カップルじゃなかったっけ…いや、違う、愛人?
誰が?誰の?
俺が悩んでいる間にも辺りは静かに成り行きを眺めていた。
静かすぎる溜まり場。
滅多にない光景の中、それにも気がつかず俺は悩む。
喧嘩はよくするし、売られたら買ってしまうけど、いいこととは言いがたい。とくに、殴り合いだとか暴力はいいことじゃない。怪我をすることだってある。好きなやつが怪我なんてしたら、嫌じゃないのか?
…だから、好きならとめるもんじゃないのか?
だいたい愛人って、皐の様子からみて、皐は晃二のことすごく好きなんだろ?じゃあ、皐の愛人が晃二とかいうのは変だ。
だったら、晃二の愛人が皐?
二股…なのか?
そうおもった俺にはもう、皐は目に入ってなかった。
駆け出し、晃二を殴ろうと腕を振り上げた。
晃二は俺にすぐ気がついて、こちらをゆっくり見た。
「なんですか、篠原さん」
そういって、俺の拳を避けた晃二が腹立たしかった。
「お前…!お前止めろよ!」
「何をですか?」
「好きなんだろ…!」
こんなときまで店員のような晃二に俺は腹が立った。
「何が、ですか?」
晃二はきっと解っている。
俺と出会って、二回目にあったとき、解っていてもやるといった。
今とっている態度も、その時の態度も。解っていても直す気はない。そういう奴なんだって俺も、一学期の間に理解してた。
でも、血が上って俺はそんなこと無視した。
「皐が!」
「総長…!」
声を上げたのは、皐だった。
俺をとめるために強めた声。
でも、そんなの、今の俺にはどうでも良かった。
皐は、晃二が好きで、晃二も皐が好きじゃないのか?だから一緒にいるんだろう?そうでなければ、どうして、恋人みたいな関係なんだ。
「…少年。俺はね、さっちゃんのこと、嫌いではないよ。でもねぇ、少年」
そのあとの、言葉は、恐ろしく冷たかった。


…『ちょとつもーしん』で『直情型』周りが見えないことが多々あって、思い込みも反省するまでは激しくて。
ソレが俺。
だからって、ソレがすべてに通じるほど上手いこと世の中はまわってない。
そういう人だからしかたないよ。とか、悪い人ではないんだよとか。
それだけじゃ終わらないこともたくさんあって。
俺や、俺に対する反応がそうであるように、他の人だって、『たくさん』…そう、色々思うことがあるんだって。
知らないわけじゃない。
だけど、人の気持ちをもてあそぶような、そんなのは。
おかしいし、駄目だと、思っていたし、思ってる。
それが、そうじゃない場合なんて…辛くて、悲しい。






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