お悩み相談は突然に


あの日から、皐は一日、部屋にこもった。
こもったと思ったら、荒れた。
喧嘩を色んなところに売ったり買ったり。
…見かけることが少なくなった。
俺は幹部連中に捕まって、皐のようすだけはなんとか聞いているものの、皐自体には近づけなくなった。
最初はそれでもどうにか会おうとしていた。
それをやめて、大人しく話だけを聞くようになったのは、十夜の話を聞いたから。
「総長、どうしても、皐に会いたいすか…?」
「だって…!」
皐が部屋にこもったり、荒れたりしているのは俺が晃二に聞いたからだ。
あの時、皐の気持ちも晃二の気持ちもまったく考えなかった。
ただ、腹が立っていた。
皐はあのとき、俺を止めた。それを無視して、俺は晃二に問い詰めた。皐は、晃二のあの言葉を聞きたかったんじゃないのに。
寂しいと、悲しいと思う。
思うけれど、わざわざそれを知ることも人に言われることも、余計なお世話なんだと、思う。
謝らなければと思った。
謝ってすむことではないかもしれないけれど、謝らないことがいいことだってあるのかもしれないけれど。
どっちがいいかだなんて、俺には判断できなくて。
でも、とりあえず、ではなくて、俺は本当に謝りたかった。
だって、自分勝手だ。
こうやって謝りたいのだって自分勝手かもしれないけれど。それでも。
「自分のやったことに、後悔してるんすね」
「そりゃ…」
「…俺は、感謝してますよ」
毎日、皆で皐を探し、止めて、疲れた顔で、十夜はそういった。
何を感謝するんだろう。
俺は、悪いことをした。
何を、感謝、するのだろう。
「総長が言わなければ誰も、言わないから。皐は、あのままだと、ストレス発散もうまくできずに、怯えて、飽きられて、捨てられるんだと思ってましたし」
なにげに、十夜が酷いことをいう。
「皐の努力とか、そういうのは…那須晃二というやつの前では『頑張ったねぇ』の一言で終わる出来事で…一瞬なんだと思うんス。ちょっと特別な友人の枠を超えることなんて現状有り得ない。いつかぼろぼろになる頃に捨てて、笑うんだろうなとも思ってました」
本当にそうなるとは限らないのに、まるでそれが予定されたことのように、いう。
「そんな状態になるかどうかなんて、先のことだしわかったもんじゃないけど、限りなくそれがありそうな状況だと、たとえ今、こうなっていても、壊してしまった方がいいと思ってしまうのは、ちっせぇ頃から見てきた俺や雅なんかでは仕方ない」
仕方ないことなんだろうか。
でも、思うことと実行することは違うんじゃないだろうか。
まして、俺はそういう思いがあって、やったんじゃない。
頭を下げて動かない俺に、十夜は続ける。
「それと同じくらいの気持ちで、皐がいいのならそれでいいとおもう気持ちもあるんス。だから、何もしない。何か、起こることを…期待してしまうんス。その何かが、どういう風に起こったかは関係なく…結果、こうなったのならそれでいいと…だから」
十夜は同じ言葉を繰り返す。
「感謝してるんス」
だからって、俺が後悔して謝らないでいいということではないし、反省しなくていいという理由ではない。
「でも、俺は…!」
「…総長、感謝はしてるんスけど、それと今、皐に会うことを止めるのは、別で…。やっぱり総長が今、会うのは皐のストレスにしかならないんス」
顔を上げて、十夜を見る。
苦笑いした十夜は、疲れてはいるものの、いつも通り男前だ。
「総長が後悔して、反省するなら…大人しくしてもらえないっすかね?」
誰を責めることなく、まっすぐ俺をみた十夜は、俺と同じ年なのに、とても大人で、男前に見えた。
俺は、話を聞いた直後もやもやしたけれど、そのまま行動したんじゃ、この前と一緒だ。
少しの間考えた。悩んだ、考えた。
そして俺は、皐に会うことを待つことにした。






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