俺はわりと顔に出やすい。
沈んでるときも起こってるときも、楽しいときも、すぐに顔にでる。
秘密ごとや、嘘とかができない顔をしていると恭治が昔いっていた。
「少年、大志を抱かず、何を抱えてるんだい?」
だからって、ファーストフードのカウンター席で妙なことを言われるのは、嬉しいことじゃない。
「いや、あの…」
なんといっていいか解らない。
カウンター席でぼーっとしていた俺は、憂鬱なきもちのまま、そいつを眺める。
長めのポテトを俺に向けて尋ねるそいつは、胡散臭いサングラスを光らせ、手にもったポテトを食べると、空席だった俺の隣に座る。
「おじさんに話してみてくれないかい、少年」
胡散臭い。
ナンパとか誘拐にしたって胡散くさすぎるその自称おじさんは、Lサイズのポテト二つを紙ナプキンに広げ食べながらも俺を見詰めてくる。
食べかけのハンバーガーも飲みかけのジュースも、数本しか食べていないポテトも気にならないくらい、隣が胡散くさすぎる。
俺は、トレーを持って逃げの姿勢だ。
「逃げなさんな、青少年。おじさん怪しいけど悪い人ではないよ」
自分で怪しいっていっちゃってるし!
「いや、怪しい人についてくなっていわれてるんで…」
主に、遼からとか十夜から!
クソババアは殴っても逃げろとかいってたが、殴っちゃマジィだろ。
「ついていくのではない。お話をするだけだから」
いやいやいやいや。
俺は今さっきまで落ち込んでいたのも忘れて、首を何度も横に振る。
「そういう問題じゃ」
「いいじゃーまいか。少年、ビーアンビシャス!とりあえず座りなおそう。そして、胸のうちをばばーんとひけらかそう!豪華客船に乗ったつもりで!」
なんかノリがどっかの誰かに似てる。でも、あいつはもっと言ってることがワケ解らない。
もしかして、アレの身内だろうか。
なんて思っているうちに俺は、椅子に座らされていた。
「聞いてくれよ、少年」
「って、俺が聞くのかよ!」
「息子がさー冷たいんだー家に入れてくれないんだー『誰ですか?すみませんが、そんな名前の人は半年と一月ほど家を留守にしています。いないも同然です』とかいうんだよ」
半年家を留守にしたのか。
いや、無くはない。そういう人もいなくはない。
「『年がら年中、あっちへふらふらこっちへふらふら。仕事に趣味に大忙しなのは結構ですが』って、敬語とか冷たいよー息子冷たいよー」
「って、注目すべきなのそこなんだ!」
俺のつっこみ無視で、そいつは話し続ける。
「そんでさー『まぁ、仕方ないですが。出すものは出さないと家の敷居はまたがせませんから』って、普段はほとんど寝てるくせにー」
出すものってなんだ、やっぱ金かな…
とか思っていると、そいつはやっぱり勝手に答えをだした。
「たぶん担当さんがうちに先にお電話してくれたんだろけどさー。なんか息子にあって、だらだらして提出したいじゃん」
「何を?」
「お写真」
と、そいつは封筒を持ち上げた。
写真が入ってる…らしい。
俺は結局、カウンター席に座ったまま、そいつの話を聞き、ツッコミまでしてしまっている事実に今更気がつく。
「おっさんの話聞いてる場合じゃねぇ!」
はっとして、立ち上がろうとしたが、おっさんは俺の腕を掴んでソレを阻止した。
「さぁさ、おっさんも話したことだし!少年も、胸のうちをどーんと!ほれ、どーんと!」
前置きなげーよ!おっさんそのために話したのかよ!どんだけ聞きたいんだよ、大きなお世話だよ畜生!
俺はこのとき思った。
人の世話を焼くというのは、場合によってはいいことではないと、しみじみ。
…でも結局俺は、おっさんに話、しちゃったんだよね。
詳しく、じゃねぇけど。
もやもや、してる部分とか。
「おっさんはさぁ…恋、したことある?」
「おーおっさんも恋したから四号まで作ったんだぜ」
おっさん、ひとが真剣に打ち明けてんのに、下ネタふってんじゃねぇよ。
四人もお子さんがいるのか、そりゃよかったな。
とりあえず、さっきのおっさんを見習って、俺は話を続ける。
「もし、すきな人が自分のこと好きじゃなくて、でも付き合ってくれて、それがなんかフラフラというか安定してないというか…とにかく、なんか難しいので愛人とかいってるのをさ、壊しちゃうのってどう思う?」
聞いていないようでちゃんと聞いてくれていたおっさんは、一度首をかしげたあと、ふむ、と一言。
「じゃあさー少年は、恋ってどんなだと思う?」
「え?きらきら…してると思う」
「じゃあ、愛人は?」
「どろどろに…なると思う」
納得したように、おっさんは頷いたあと、口を開く。
「形ってさー人それぞれで。それが愛だとか恋だとかにならない人っていると思うんだよね。少年のいってるのがそのケースとは限らないし、どうでもいいっておもってるのかもしれないし。おっさんには難しくてその辺はよくわかんないんだけど」
ポテトを紙ナプキンの中央に集めて、おっさんは笑う。
「壊しちゃって悪いなと思うんだったら、少年よ、悩め、考えろ、だな。壊れたものは元には戻らないんだから」
おっさんはちゃっかり俺のジュースを飲んで、喉を潤す。
俺は、それに突っ込む気力はない。
やっぱり、すごく、悪いことを、した。
「でもさ、おっさんはねー立ち向かえとかそんなんはいわないねぇ。逃げてもさ、いいこと一つもないけど。でも、選択肢の一つだ。どっちとってもさ、結局後悔なんてするんだから。楽なほうに流れても、そうじゃないほうにいっても。人に罵られようが、讃えられようが。迷惑かけようがかけまいが。結局後悔はするんだよ。何度もね。少なかろうが多かろうが、するもんなんだよねー。そんで選択したあと残るものって何だと思う?」
俺はわからず横に首を振る。
おっさんは笑う。
「自分だよ。全部、自分に返ってくる。だからね、少年。選択できるものはたくさん持つといいよ。自分から狭くする必要はない。だから、考えて、悩め。そんで、大志を抱け!」
おっさんはそういうと、ポテトを箱に戻して口の中に流した。
流し食いだ。
そんで、俺のジュースを何気なく持っていった。
「それ、俺の…」
と呟いた頃にはおっさんは消えていた。
結局、あのおっさんは一体なんだったんだろう。
俺のジュース持ち逃げしただけじゃなかろうか。
でも、俺はおっさんの言うとおり、悩もうと思った。考えようと思った。
少しではなく、たくさん。






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