あとはいつも通りの夏休み。
兄上に、お給料をやっぱり、手数料とか言われてピンはねされたり、一日空調のきいた部屋から出れなかったり。
昼夜が逆転して、蝉が騒ぎ始める頃に眠ったり。
課題を適当にやったりもした。
学院時代の友人や学園の友人と遊びに行ったりもした。
いつも通りすぎて、そろそろ飽きたな。と思ったのが、夏休みの終わり。
最終日の夜に、知らない番号からの着信が鳴り響いた。
変な電話だったらどうしようか。
なんて思いながら、俺は携帯のボタンを押した。
退屈は、あまり好まない。
『晃二か…!?』
慌てた様子であったけど、それは俺の携帯の番号なんて知らないはずの少年だった。
俺と絶交だと言わんばかりの勢いで睨んできた姿を思い出して、よく電話なんてしてきたなぁと感心しながら、のんびり返事をした。
「この番号は、只今…」
『晃二だな!』
とぼけたのに、確信されてしまった。
『今すぐ、寮まで来い!』
何故寮なのだ。とか思わないで無かったが、夏休み最終日までのんびり実家にいる人間なんて、ご近所に住んでる人間か、家が好きすぎるくらいのやつくらいだ。
俺は、もちろん前者である。
「なんで?」
『お前しか、止められねぇんだよ!』
まったく前置きのない少年に苦笑する。
「何を止めろと?」
『皐が…!皐が…!』
苦笑どころか、ため息までついてしまった。
「さっちゃん、歌ってる?」
『…なんでわかんだ…!』
「歌ってんなら、俺じゃ無理。水城か会長に頼んでごらん。歌ってなくても、水城か会長のが早いよ」
『…なんで…』
「事実、だしねぇ」
俺が呟くと、受話器越しに何か物が壊れる音がした。おや、そうとう酷い有様のようだね。
しばらくの沈黙。
『……俺は、選んだんだ…』
そういって通話は切れる。
耳元でツーツーと鳴っているのを聞き届けると、俺はソファにゴロリと横になる。
偶然近くで新聞を読んでいたおにーたまが、受話器から丸聞こえだった少年の声と俺の答えに、にやりと笑った。
「行かないのか?」
「行くわけないでしょ」
「だよなぁ…面白そうなのに」
「ああ、それは確かにね」
面白さと面倒くささを天秤にかけるけど、やっぱり面倒くさい。
おにいたまに向き直ることも無く、俺は携帯を充電器にさす。
「でも面倒臭そう」
「それも確かに」
ぺらっと新聞紙を捲る音がする。紙面が大きいだけにいい音がなった。
「でも、放っておいてはくれないようだな」
といっている間に、遠く…というか、随分近くから派手なバイクの音。
マフラーに穴を開けたあの音。近所に騒音で訴えられそうだ。
その音は、俺とおにいたまがいる家でとまる。
アイドリンクストップって言葉知らないのかねぇ。
と思っていると、バイクのエンジン音と廃棄音に負けない大きな声。
「晃二でてこーーーい!!」
ああ、兄上の言うとおり、放っておいてはくれないのか。
あまり抵抗する気にもならず、俺は携帯だけをポケットに入れる。
「ちょっとでてくるねぇ」
「今夜は帰ってこないな」
兄様、非常に不吉な予言を投げかけないで下さい。
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