*暴力表現あり




あれよあれよとしているうちに、無免許運転のバイクに乗せられて、学園につきました。バイクは免許をとってから。
とにかく。あんな、信号機もないチャリで十何分の距離をバイクをかっ飛ばせば、酷い時間につくわけで。
学園前に降ろされた俺は、疲れた顔をした風紀委員長に出迎えられました。
「止めにいかなかったのか、水城」
「…おまえに言われたくねぇ。とりあえず、雅が止めにいってる。けど、雅も止まらなくなったらやべえ」
「あれ?今まで一番まずい状況?」
尋ねると水城は頷いた。
そっかぁ。
さっちゃんを追い詰めるのも暴れているのを見るのも初めてではないけれど、会長や水城が止めてもすぐ収まらないのって珍しいかも。
「ストレスたまってるんだねぇ」
「…誰のせいだと…」
解ってるけど、あえて。
会長もそうだったけど、十夜はさっちゃんのことについて、俺を怒ったり殴ったりということはないようだ。
二人とも、どのような結果になっても何も言わない、何もしない。と決めていたし、半分以上諦めていた。でもそれ以上に、たぶん、『期待している』。
壊してから始まるものもあるのだと。
「でも俺で止まったためし、無いじゃない?」
「……原因がいつまでも出て来ねェのは、もっと問題あんだよ。お前がいれば半減くらいすんだろ」
するのかしら?
そこんとこはあんまり感じたことはない。
さっちゃんが暴れるのは主にストレス。
特に歌いながらだと最悪。
さっちゃんは感情が高ぶると、歌いだす。
息が苦しくて、呼吸の仕方がわからないと思うからだと、いつだかに本人からではなく、水城にきいた。歌うことによって、息をいれようとするとか。
だけど、感情が高ぶるたびに歌うとか、変な人だと思われかねない。
さっちゃんも自覚はあるから、それをしないようにするために、唇を噛む。
それでも、駄目なようなら歌ってしまう。
できることなら感情が高ぶらないようにするのが一番だ。だから、さっちゃんは普段は大人しいし、とても静か。
けれど、ここ最近、それがままならないのは、もちろん俺のせい。
水城に逃げないように手を掴まれ、辿り着いた場所は、俺とさっちゃんの部屋だった。
あれ?ここで暴れちゃったの?まずいなぁ。部屋ん中ぐちゃぐちゃじゃない?
マスターキーでドアを開けて、中に入ると、幼馴染の一人と対峙するさっちゃんと、足の踏み場を迷う部屋。むしろ、そのまま物を踏みしめてしまったほうがいいと思う。
「あーあ…片付けるの大変だろうなぁ」
ここまできて言うことがそれってのは、どうなの?って思ったのは、さっちゃんと会長以外だろうね。
さっちゃんと会長はたぶん、それどころじゃない。
膠着状態みたいだから。
「おまえ…」
苦い顔をする水城。
短気な部分もあるが、ある程度まで怒りが越してしまうと呆れる。
部屋の中を見渡す。
割れ物は全部われているし、ソファも普段とは違う姿で部屋の中に鎮座している。
対峙する会長は流血沙汰になっているし、もちろんさっちゃんも無傷ではない。
さっちゃんが止まりそうもない。そして、止めることができるものがいない。
そう悟った瞬間、水城が少年に俺の携帯番号を教えたんだなと悟った。
「俺に、さっちゃんを動かなくしてほしいわけか」
水城が顔を歪めた。
どうやら、当たりのようだ。
「………頼む」
「手加減なんてできないからね。さっちゃんすごいから」
「…それでも、頼む」
そういいながら、ようやく部屋に辿りつきそうな少年の足音をきいて、水城は部屋の外に出た。
俺がゆっくりと近づくと、俺に気がついたさっちゃんが動く。
会長も俺と交代するかのように動いた。
「久しぶり、さっちゃん」
きっと聞こえてはいないだろうさっちゃんに声をかけ、にこりと笑う。
会長が部屋の外に出ると、始まる。
「暴力の振るい合いの喧嘩は初めてだねぇ」
重たいだろう一撃をかわした後、蹴りを叩き込む。
その蹴りは難なくガードされる。
一発で沈めるなんて、喧嘩慣れしてる上に強いさっちゃんには無理。
それは俺じゃなくて会長や水城も無理な話。
さっちゃんの幼馴染たちは俺より強いけれど、さっちゃんを本気で殴ることができない。
それができて、さっちゃんを沈めることができるかもしれないのは俺だけだと、判断されたから、俺はここに招待された。
「なんかねぇ、退屈だったんだけど」
なんだかそれをちょっと感謝。
避けて、ガードして、一発いれたりいれられたり。
そんなのを繰り返す。
面倒だし、退屈だと思っていた。
繰り返すほど、俺の気持ちは安定しなくなっていた。
誰かを動かなくする前に、退屈が殺された。
キョウキをカンキした。
綺麗なわけじゃない。
痛くて面倒でダルイだけの暴力行為が、どうしようもなく、楽しい。
さっちゃんが、苦しそうで、楽しそうで、すべてを歌うから。






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