*暴力表現あり




何時までも続けばいいと思った。
絶望したみたいに声を上げるのに、希望を残すみたいに音は紡ぐ。掻き毟って引きちぎりたい。
でも、長引くと不利な俺は、勝負をかける。
足場は、俺がこの部屋に来たときから、最悪だ。
それを利用する。
何気なく追い込んだその場所で、皐は足をふらつかせた。
それをのがす俺ではない。
「愉しくなっちゃった」
足払いをかけ、皐を倒す。
頭をかばい、受身をとる様はさすが。
でも、その間も俺はとまらない。
無理矢理、肩を踏み抜く。
折れなかっただろうけど、偶然肩が外れたようだ。
苦痛に歪む顔。
ゾクゾクした。
「俺、変質者かも」
腹のそこから笑いが込み上げてくる。
変化は一瞬だ。…そのくせ怠惰だ。
本当に本気で、どうしても。
理解できないものは理解できないし、退屈なのも、面白みがないのも好まない。
罪悪感なんて少しも無く、惹かれる部分も、同情することもなかった。
だが、なんとなく思う。
間違いを犯すなら今、なのかもしれない。
本当に愉しくなってしまった俺に、激痛で漸く理性が帰ってきたのか、それとも、俺と同じく愉しくなってしまったのか。
皐は、俺と同じような顔をした。
怠惰なくせに、本当に一瞬。
きっかけなんてくだらなくていい。
「……ん」
そして頷く。
さっちゃんってば、ひどーい。
肩に置いてあった足を退けると、手を差し出す。
手を伸ばしてしっかりと俺の手をとるさっちゃんは、何時もと同じ、眠そうな顔に戻っていた。
「いたい」
「うん」
ふと、笑って、頷いて、さっちゃんを立たせる。割れ物の上に寝転んでたせいで、背中は酷い有様だ。
保健室で間に合わないかなぁ。
なんて思いながら、引き寄せる。
俺は、犯そうと思う。
「さっちゃん、別れようか」
「……」
さっちゃんの身体が強張るのが解った。
俺は、それをかわいいと思いながら、腕が汚れるのも構わず、抱き締める。
「それがきっと一番だから、俺とさっちゃんは」
「……無理」
「何が」
「晃二が、いないのは、無理」
俺は、好きじゃなかった。
欲がるのはいつも俺ではなかった。
俺の興味から外れないように必死だったのは、裏目だったとしか言いようがない。
「それも、無理だ」
いないのは無理だというのに、離れようとするのを離さず俺は笑う。
「皐」
俺が欲しいものを、持っていたのに。
傷口を抉る様に指に力を入れる。
違う意味で強張った身体に、笑みを零す。
参ったな、こんなつもりで此処きたんじゃなかった。兄上の言うとおりになっちゃった。
「欲しいのは、愛しい人じゃ、ないだろ?」
腕の中で、皐の身体から力が抜けた。
欲しいものに、『名称』は必要と、しない。
名前は、もうついている。






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