面白い準備期間


病院にいって、学校に来ると、そこでは女装をした生徒とか色々でカラオケ大会が行われていました。
「なにこれ?」
思わず、聞いてしまった俺を許してください。
「お前と灰谷がこじれて、イベントを本決めにすることもできなかったから、こうなった」
おにーたまの回答は簡潔だったねぇ。
「…もーしわけない」
「思ってないだろ」
「えへ」
笑って誤魔化しちゃった。
兄上もあんまり気にしていないようで…マイクをそっと俺に渡してくれた。
「責任は取ってもらうからいいがな」
あ、ぜんぜん気にしておられました。
そして俺はステージに立って、なんかよくわからないうちに浮気したけどあやまらねぇし!気にすんなし!って、そんなんで腹立てんなし!って歌歌いました。
これリクエストするのあんまりじゃね?って思ってたら、舌打ちまでされちゃった。何、90点以上って駄目なの?
でも、そのあとに入ってた曲に、首を傾げる。とりあえず連続で歌えということなのはなんとなく解る。
それにしても、リクエストするにしても、これって聞いてるの見たことある?歌ってるの聞いたことある?っていうような曲なんですが…。や、聞いてましたがね!
誰も助けに来てくれないどころか、ステージ脇でカンペを差し出す生徒会連中。
このままコレ含め、あと三曲って、なんですか。ちょっとミニライブ風…。
というか、皆、すみません、迷惑かけました。 お腹立ちはわかりました…。
これを含めあと三曲、全部女性ボーカルの曲だったのはホント、ただの嫌がらせだと思う。
もうそろそろ、俺に無茶振りするのやめてくれないかなぁ…と思いながら、歌いきる。
『はーい、全部の採点結果は此方で見させていただきましたー』
疲れてマイクのスイッチを勝手に切った俺に代わり、司会のキーくんが戻ってきたようです。
ていうか、ちゃっかり採点してたんだ、あの三曲。すごくノンストップだったよ。なんというか、放送部の人、お疲れ様です!
『なんとなんと、二曲目、89点にて、アウト!あとは90点以上です!』
騒ぎ出す講堂。
89点でアウトってどういうこと?と思って、首を捻った俺は、何時の間にか現れた前会長とおにーたまにがっしりとステージの端の怪しげなテントに…
「あー…なんなんすか」
「90点未満はアウトで、女装だ」
それ、真面目な顔していうことじゃないよ、雅会長。
俺は引きずられるままテントの中に入る。
「晃二なら、やらなくても自分で着るだろ。さぁ、選ぶがいい」
そういって、ざっと出したお衣装はとっても少なかったです。
そうだよね、講堂に女装男子たくさんいたもんね。しかも、布が薄い感じの女装服ばっかだったよ。
「あの、その、手前にある真っ白なドレスはいったいなんですか」
謙虚に恐縮したみたいな調子で言った俺に、前会長はばさぁっとその衣装を広げて見せた。
「一押し」
「未婚だし、晃二いき遅れるかもしれないが」
前会長と前副会長が俺を虐めてくれます。
「いき遅れたら責任とってくれるの、兄上。近親婚だよ、いやん」
まぁ、屁でもねぇですよ。
「いや、そこは皐が喜んで」
そりゃ、さっちゃんなら喜んでとってくれるでしょ、これなら。
というか、ここで、男だからとか、嫁はおかしいとかいう突っ込みは無いんですか。困ったなぁ。面白いからのっちゃおうか。
「さっちゃんおっとこまえ!太っ腹!でもアテシより可愛い旦那さんって、ちょっとじぇらすぃー!」
「まぁ…外見的には晃二の方が男臭さがないから、着るならお前だよ」
ちょっと真剣に答えないで下さい。確かにさっちゃんには似合いませんよ、ウエディングドレスは。
「一押しですが、アテシはこちらの無難なようでパンツが見えちゃう、ダメ!みたいなチャイナにしておきます。紐パンはあるかしら」
そっと差し出してくれる黒の紐パンが……て、女性下着でした。レースがすごいぜ、高級感あるぜ。エロい。しかし、これ、男が履くとどうなるだろうな、透けそうだな。ダメだろ。納まるのこれ?自慢じゃないけど、小さくねーぞ。俺の。
「後ろ前逆に履くといいらしい」
へぇ…って、そんな無駄知識いらんだろ、兄上。 「これ、後ろTじゃん。無理じゃん」
って反論した俺もなんか、違うと思うけど。
Tってもう、大きさ関係なくこぼれるだろ、後ろ前逆だと。
「どうしたもんか…これ、納まらないと思うんですが、会長」
「自信あるな、コウ…」
そういうと、Tの紐な男性用ビキニが出てきました。ちゃんと用意あることがおかしいと思いますが、あえて突っ込みませんよ。この学園のイベントにかける力といったら、悲しいことに学力に勝るとも劣らずデスヨ。
それをこっそり受け取ると、俺の早着替えは始まりますと思ったら終わります。…早着替えだからね。
ばっさばっさと制服脱いで、チャイナドレス着衣。ロング丈のスカートから丸見せなパンツを潔く脱ぎ捨てて、新品未開封なビキニパンツをするっと履く。納めるものはパンツ弄ってきれいに納めなおして、さりげなく用意されたシェーバーで適当に色んな無駄毛を剃ったあと、やっぱり未開封なガーターベルトと柄タイツを…って、おい。
「ガーターいつ用意したよ。ていうか、求めてるラインちがうくね?」
「晃二ならやってくれると思って」
いや、やるけど、なんだ、どうして着地点がここなんだ。
さりげなく豪華なフェイクファーのマフラーとか用意してるし。
俺はなんなんだ。
と反論する気も起きなくなってきた俺は、大人しくガーター着衣、柄タイツ着衣。
もうさーなんのマニアック路線なわけ?
ほんとは、ガーターって靴下止めなわけだから、マニアックってワケでもないんだろうけどさぁ…。
ま、せっかく足出してんだし、ソレくらいのサービスあってもいいかな…
男の筋張った足ということはおいといて。
俺、蹴り得意だから、かなり足の筋肉発達してるけど…。
サイズのでかいピンヒールブーツをはく。
…どこのお店からでてきたのかしら、アタイ。
「化粧はするべきかしら」
「したら、別人になるだろうが、お前。似合いすぎてても面白くない」
うんうんと同意しなすった前会長が憎いです。
俺がテントの中でツナギで歌っていてくれた尚ちゃんが歌い終わると、俺が再び登場。マイク持たされて。
『どーも。誰も期待してない女装晃二くんだよー?』
自分で先に言っておきました。
親切だと思います。
その場でくるっと回って無駄にウインクをしてみせました。
ステージ袖から、ママステキーと茶化されました。声を変えていたが、あれは兄上ですね。わかりやすい人だー。
講堂内の反応は様々。
似合う、似合わないの前に、マニアックなガーターに反応するって、どれだけ見られてるんだか。 まぁ、きゃーとか、うおおおおとかいう反応は見られない。
笑ってる奴らはたくさんいたけどな。






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