「…総長、パン喰い競争…がんばって」
「お、おう」
何気なくアレ以来始めて会う皐は、前と変わらず俺にべったり抱きついて応援してくれた。
珍しく晃二も一緒にいたので、俺はどんな顔をしていいやら迷いつつ、いつも通り答えた。
「皐は、…何すんだ?」
近くにいて、皐に会うなといっていた十夜は何も言わず俺たちを見守っている。…気がする。
「………メアリ」
「……メアリ?」
「…振り回す」
「いや、わかんねーから!」
思わずつっこんだ俺に、皐はいつもと変わらずぎゅうぎゅうと俺を抱き締めていた。
「まぁ、見てのお楽しみ」
気まずい雰囲気ではないけれど、緊張している俺を見て、晃二がちょっと小馬鹿にするように笑った。 うわ、腹立つ。
「篠原少年ガンバレヨー。さっちゃん、気にしてないから」
いや、普通気にするだろ!
「ないから」
いや、エコーしてる場合じゃないぞ、皐。
普通は気にするだろ!
「ぶっちゃけねー、少年がいなくても、いつかはああなっちゃうんだから。いい機会だったよ」
いや、晃二、呑気すぎるから!ていうか、いい機会って、それもどうなの!俺がおかしいの!?
「刺激は少ないほうがいいから、水城がとめてくれたみたいだけど。もう大丈夫。少年ごときではどうにもならないようにはなったから。…たぶん」
って、おい、たぶんかよ!
しかも、何気なく俺ごときとか言いやがった!晃二ほんと、お前、ほんと!
「総長、いない…寂しい」
いや、そんな、アイミスユーみたいなこといっていいのか皐…。
ううう、いまいちわからない、この二人。
「ホント、お前らは…」
ああ、今、俺の味方をしてくれるかも知れないのは多分、十夜だけだ。
二人の様子に溜息をついて、顔をしかめている。
俺もその気持ち、なんとなく解る。
「で、何出るの、水城」
おいおい、切り替え早ぇな、晃二。
「おしえねぇぞ」
そんで、返しが早ぇよ、十夜。
「さっちゃんは教えてくれたのにー」
「皐は教えたところで、かわらねぇだろ。どうせ、全競技出場させられる誰かさんの対抗馬としてすえられたんだろうから」
「あは、ば、れ、た」
いや、ばれたじゃなくて!
「俺は対抗策練られちゃたまったもんじゃねぇし、いわねぇよ」
あ、そうか。晃二も皐も十夜も、別チームなんだよな。
晃二は副会長だし、皐は会長だし、十夜は風紀委員長だもんな。
だから、晃二は十夜を探ってんのか。
「ま、うちのクラスさっちゃんチームだから、必然的に知ってるだけだけどー」
「晃二…追い、出されなかった」
何処から!?
って、クラスからか?競技決めの時、追い出し食らわなかったのか…。じゃあ、筒抜けじゃん。敵の一部戦力…。
赤、白、青の振り分けは大体一学年1クラスごとで、Dだけが例外。Dだけは三色バラバラに振り分けられる。
どうやら二年の赤はAクラスらしい。…一年はCクラスだって、きいた。
ちなみに、俺は赤組。
「あーあ。今年の青、三年のAが入ってるから、警戒してるのに…」
「へぇ…って、誰が組み割り決めてんだ?」
「高雅院元会長様…ぱっと決められちゃって、反論する間もなくゴーされちゃった」
え、あの会長さん、そんなことしそうに見えないのになぁ。
「ああ…雅は、会長じゃなくなったことだし、そろそろ対決でもしておくかって」
「うえー面倒くさい…こーがいん先輩、運動神経バリいいじゃんかよー」
「…晃二、ガンバレ」
三人の様子を見ながら、思うことは一つだ。
…そろそろ、皐離れてくれねぇかな…。






next/ 二人の変装top