出会いは突然に。


午前中の競技ってあっという間に終わるもんなんだな。
Dクラスは殆どが不良だ。不参加多いんだろなって思ってたけど、クラスの長が参加っていったら、参加だし、風紀の連中がやたら尊敬されてることもあって、むしろ参加しないほうがおかしいという感じ。はりきりすぎて夜も寝てねーよみたいな空気。
体育祭なんて、ほんとのところ、参加するの初めてで、俺の記憶では運動会が最後だった気がする。
午前中の意味の解んなかった競技は、なんか、皐の言ったとおり振り回す競技と、あとなんか嘘を見抜く競技と障害物競走だった。
なんというか、一年は好き勝手楽しくやったかんじなんだけど、二年三年は…なるようにして、こういう結果になりました。みたいなかんじがあった。なんだか力イッパイってかんじではない。
でも、龍哉は怖いし、皐は鬼気迫る勢いで振り回していた。
龍哉はなんで、あんな、すっぱりと嘘が見抜けるかわからない。嘘発見器とかついてるんじゃないだろうか。
皐も力強いっての知ってたけど、他を圧倒するくらいの勢いだった。晃二なんて適当もいい感じで振り回していた気がしなくもないのに。
「お、すけちゃんなんか不思議そうだねぇ」
「あー…うん」
「体育祭ってこんなもんなのかとか思ってるだろ、お前」
戸田家の昼飯に交ぜてもらって、ぼーっとしていたら、しゅうちゃんと尚にそういわれた。
違うのか?
「ここの体育祭は、リーダーに引っ張られるところがあるからな」
なんていったのは、戸田家長男の傾城さん。
「え、傾城さんって、ここのこと知ってるんすか?」
思わず聞き返してしまった俺に、傾城さんは笑った。
「五月にもここにきてたんだが?まぁ、見えてなさそうだしな、篠原君。それは置いといて…お隣の、AP学院の出身だから、結構知ってるんだよ」
「ん。だから、リーダーがどういう風にゲームを運びたいかってのが、如実に出てくる」
傾城さんの隣で少し眠そうに、おにぎりを食べていた蛍雪さんもOP学院の出身だそうで。
どうして尚はここなんだ。となんとなく思ったのが顔に出たのか、尚ではなくて、傾城さんが説明してくれた。
「尚がここなのは、俺の興味本位と蛍雪の兄心と幸直の『すげー』の一言だな」
ユキナオが弟を自慢げにしていたのを思い出し、俺は思わず尚をみた。
「あの人が『すげー』っていうと、ついやっちまうんだよ」
ふて腐れたように茶を啜る姿は、照れくさそうにも見えた。
戸田家はいつもほのぼのだ。
「ま、それだけじゃねぇんだけど」
尚が頭を少しかくと、タイミングがいいのか悪いのか、十夜に挨拶をしに行っていたユキナオが帰ってきた。
「あ、俺のシャケがねぇ!」
「あ、わり、俺が食べたわ」
平然と言い切った傾城さんは、本当のところ、わざとシャケを狙って食べていた節がある。
ちょっとした弟いじりだ。
「ひでぇ!ケイ兄ひでぇ!わざとだろ!ぜったいわざとだろ!」
「気のせい…ではないなぁ」
傾城さんは嘘もつかず堂々と言い放つと、食後のデザートの林檎を食べる。
眠そうな蛍雪さんが、傾城さんに食って掛かろうとする弟を片手で制した。
「シャケくらいで…小さい」
尚は弟いじりを始めた兄二人に巻き込まれないように、こっそり距離をとっていた。
とりたくもなるよな、俺もちょっと距離置いたし。
「じゃあ、セツ兄は、好物とられて黙ってられるのか!」
「それより睡眠が大事だ」
「じゃあ、枕とられたらどうすんだよ!」
「……俺の枕は人にとられるほど……とられたら、とりあえず沈める」
何か、ナオユキのいう枕と蛍雪さんのいう枕が違うような気がしてならないが、一段低くなった声がなんだか怖かった。
ナオユキも同じだったのか、少し調子をさげたが、それでも傾城さんに食って掛かった。
「ほらみろ!セツ兄ですら、ああなんだぞ?」
「比較対照の重さの違いってのが解ってないあたり、かわいいよな、お前は」
食って掛かるのにまったく相手をされていない。
なんだかナオユキは尚と兄弟なんだなと改めて感じさせられる一瞬だった。
なんか、尚とナオユキの扱いってさ、似てるよな。
「俺もさすがに踏み躙るわ、そうなったら」
尚がビクッと肩を震わせた。
一瞬、冷たく底冷えする空気を感じたからに違いない。
それに気がつかなかったナオユキは、少し首を傾げた。
「そうだろ、だから、とりあえず、今度から食うなよ」
「だが、食う」
「ひでえ!」
「…対照が違うんだ、仕方ない」
よくはわからないが、とりあえず、ナオユキのシャケと蛍雪さんの『枕』と傾城さんの『何か』は重みが違うらしい。
でも、食い物の恨みって、恐ろしいぞ。
と呟いた尚にはその違いがわかっているらしい。
なんとなく違うってのはわかるけど、『枕』とか『何か』がなんであるかってのは俺にはわからない。深くつっこむつもりもないけれど、大事なんだろうなぁ。となんとなく思った。






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