去年の俺たちは白鴬に悪乗りで全員女装で応援にいっていた。
男子校と男子校の交流で、しかも父母兄弟姉妹がいる前で女装とかとんだ恥さらしなんだけどねぇ。
面白いの半分、冗談にならない奴ら半分ってかんじの女装。
冗談にならないやつら半分の中に我が兄上と俺と元会長が含まれたというのもなかなか冗談にならない真実だったり。
兄上も化け方をしってるからねぇ。高雅院もなんかどこのハリウッド女優よ?みたいな…。すっごいモデル歩きでうまいこと化けてくれたよ。
監修はそのころ中学生だった尚ちゃんで、まぁ、化粧も特殊メイクもばっちりでした。
俺も化けたねー。化けた。若いうちしか出来ないわっていって、化けたんですが。
兄上曰く、ドラァグクイーンか?という印象だったようです。ごめんね、舞台メイクしちゃって!
ある意味、冗談に出来ないようでした。えへえへ。
まぁ、そんな悪ふざけみたいな状態で行ったのに、トノちゃんは高雅院に惚れるとか凄いと思います。確実に外見じゃないよって解る。
だって、確かに、女装姿はすごかったけど、男だったし。
トラブルに見舞われた白鴬の体育祭で仕切った高雅院はロングのタイトスカート裂いて、動き回ってたし。
まごうことなき男だったよ、高雅院雅は。
そんなトラブルを治めたお礼なのか、今年の白鴬は普通の応援団。
後からきいたら、その前はやっぱり意味の解らないクオリティのチアガール集団だったというのだから、この普通さが普通じゃないみたいに昔からいた連中は思ったらしいよ。
綺麗に統制の取れた寸分狂いなく動く集団に、ああ、トノちゃんの性格でてるなーなんて思ってたら、高雅院元会長がトノちゃんと視線が合ったらしく、軽く手を振った。
その時のトノちゃんたら。
さっきの応援も霞むくらい嬉しそうにしちゃって。 思わず待機場所で笑ってしまった。
笑っていると、なんか別のとこで騒がしくなっていた。誰かが叫んでる。けど、知ったことじゃない。
ああ、なんか、可愛いねぇ。
そんなことを思いながら、視線をゆっくりとさっちゃんがいるだろう方向に向けた。
たぶん、さっちゃんはトノちゃんみたいに俺の一挙一動で喜べる。俺が気まぐれにしかしないから、いつもさっちゃんは、ちょっとしたことで眉を下げてしまう。
可愛いなと思っていた。
可哀想だなと思っていた。
視線はそのまま、観客に見えないように隠してもらった俺は、隠れきりそうもない赤毛の長身を探す。
けれど、今はそんなところが。
すごく愚かしいと思う。
すごく、すごく。
『アゲイン!』
あまり発音がよくない言葉が聞こえた。
音楽が流れ始める。
俺は思考を止めて、僅かに動いた赤毛を見つけ、密かに満足した後、見えていないだろうと思いながら、ゆっくりと口角を上げた。
「………」
小さく口の中で思考の続きを唱えて、俺は待つ。
明るいしいい曲なのに、一部の人間しか知らないような選曲はおそらく、どっかの腐男子だろう。
体育祭準備中、あらゆるところで口ずさまれていたその曲は、すっかり聞きなれてしまった。
歌っているのは本来歌っている歌姫ではなく、うちの学校の軽音楽部の奴で、さらにアップテンポになっているけれど、気持ちが軽くなるような歌詞は健在だ。
中盤に入る前、水城が前面から躍り出る。何気なく踊っている中心に交ざった後、バク宙をしてその場を後にする。
水城が出て行く寸前、立ち上がり、こっそりダンス中の連中に俺が交ざる。
まるで、最初からいましたよ。という顔をして、水城が出て行ったあと、すんなり中心に移動。
手の項に唇をかるくつけたあと、ひらりと手のひらを見せると、水城と同じく中心で踊り、デッキブラシを最初から踊っている連中が掲げた瞬間にバク転 をしながら退場。けっこうこれ、ハードなのよ。
そして、そのかわりに、デッキブラシを装備したさっちゃんが中央にやってきて、掲げられたデッキブラシを軽く、自分の持ったデッキブラシをあてて下ろしていくと、くるりと回って、デッキブラシの柄をもって左端に寄る。そうするとすっと、軽音楽部のボーカリストが降りてきてマイクをさっちゃんに寄せた。
あれ?歌うふりだけだったんだけどな…。
無表情だけど、ちょっと微妙な雰囲気を出しつつ、ボーカルが勝手に黙るから、さっちゃんは一番いいサビ部分を歌う。
その間、ソロパーツを踊るやつが一人。
最後に、全員で最初に言われた言葉を大声で言って投げキスをした。
キスのバーゲンセールだ。
なんて思っちゃったけど、楽しかったよ。
ちゃっかり俺に向けて投げちゅーしたさっちゃんが視界にはいったから、もう一度投げチューしといた。
いや、ほんと、さっちゃん好きね?






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