第1走者が並ぶ。
緊張しちゃうなーとか、嘘でも言っとくべきかしら。珍しくキョウちゃんがやる気なようで。へらっとした様子がまったくない。
嬉しいけど何かあったのかなぁとか思わないでもない。
赤の第一走者である南くんがちらっとキョウちゃんをみたあと、前を向いた。あとは後ろも横も見ない姿勢。走りぬく、バトンを渡す。南くんは陸上部期待のホープだったり。
青の第1走者はちょっと微妙な顔したあと、前を向いた。
三者走る準備はできました。
ピストルが鳴り響く。
三者同時にスタート。
まずはやる気のキョウちゃんがリード。短い短い200メートルのトラック。追いかける青組走者。実は南くん、長距離型なんです。駅伝目指してるって言ってたくらいだものね。しかし、南くん、足が速いのも確かなの。100メートル過ぎたあたり、青組の第一走者をぐぐんと抜いてキョウちゃんに迫りましたが、キョウちゃん逃げ切って第二走者にバトンを渡しました。
そんなに差がつかないまま第二走者に変わる。
「キョウちゃんオツカリー」
声もなく走りきったキョウちゃんが、ぐっと親指立ててくれました。ん、オケ。
「こ…うちゃんも…本気で、おけ?」
息を整えながら、キョウちゃんが言うのでこちらも親指立てておきました。ほんきですとも〜。
さて、あっという間の200メートル。第二走者で番狂わせが起こりました。南君のすばらしい追い上げってのもあったので、赤白青で入ってまいりました。
さっちゃん、白の第三走者くん、修平くんが走ります。さっちゃん爆走!
かと思いきや、さすがの修平くん。本当、運動神経いいんだね。ぐんぐんゴボウ抜き。ひぃ!怖い!
でもさっちゃんだって、抜かれてだまっちゃおれませんよ。修平くんにこれでもかと粘着気味に張り付いて、次は第四走者です。
混戦してまいりました。っていうべきかしら。
第四走者の風紀委員長、青組リーダー水城十夜、バトンを持って走ります。いつも後ろか隣についている遼ちゃんもさっちゃんからバトンを貰ってここぞと追い抜きにかかってますが難しい様子。まぁね、遼ちゃん運動神経いいけど、やっぱり頭脳労働派だから。
白組はちょっと離されハルルンにかわりました。現生徒会の運動部所属者としての意地を見せます。なんと、遼ちゃんに追いつきました!でも、十夜くんには及ばなかった。
白と赤は接戦のまま次の走者にかわります。
さて、青組はさっさと第五走者の兄上にかわりました。あの人も一応頭脳派なんですが、何故か足が速いんです。
兄上が三分の一走り抜けた頃、トモちゃんが恋人を追いかけます。腐男子ですが、現生徒会そして元生徒会でも運動部所属者であり、運動部のドンとか言われているトモちゃんは、足もクソ速いのです。青のリードもなんのそのといいたいところだけで、やっぱり速いよね。兄上。
赤組第五走者も頑張ります。ちょ、まって、何か、あまり差がないんじゃないの。
とか思っている間に兄上は高雅院雅にバトンターッチ。
俺はコースを詰めたあと、後ろを見ずに緩く走りだします。
振り返らない。前だけ見る。
バトンが手に当たった感触。
バトンを握ると同時に加速。
追いかけるは高雅院雅の背中。
見据えるはゴールのテープそれだけ。
さて、追いかけようか追い詰めようか200メートル。
たかが200メートルされど200メートル。
後ろがどうなっているか、開きがどうなっているか、前がどんなに速いのかなんて関係ない。
俺は距離を縮めて追い越して、ゴールテープを切ればいい。
あと何メートル?あと何センチ?近づく背中に、見えないテープ。
あと一歩。
踏み出したその先。
一瞬真っ白になって、気がついたらゴールを駆け抜けてる。
…高雅院雅、でっかいなぁ。
なんて感心してる場合じゃない。勝ったか、負けたか。良く解らない。
少し後ろでゼーハァ言ってる元会長に近づいて、同じようにゼーハァいいながら、どっち?って声にならない声で尋ねるけど、元会長も首を振るばかり。
不意に放送が聞こえた。
『ただいま、ビデオ審査に入っています』
って、ことはほぼ同時だったのね。ってか、ビデオ審査っておいおい。ビデオとってたのかよ。
俺たちより少し遅れて入ってきた赤組アンカーがやっぱお前ら早え。って笑うのを眺めながら、審査の結果を待つ。
しばらくすると、体育祭本部テントあたりから、わああと歓声が聞こえた。
何事。
『同着!元会長と現会長、同着です!!』
「…」
「…」
思わず無言で高雅院と顔を見合わせる。
どちらからともなく、爆笑した。
「…勝負はオアズケだな」
なんて高雅院はいうけれど、いつそれをつけるんだ。なんて笑いながら。
「やだよ。会長怖いもん」
「元、だろ?」
怖いってことは否定しないのか。
去り際、高雅院に左手を見せる。
高雅院の右手がパンと通り過ぎた。






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