衣装合わせが終わると、すぐ放課後だった。
特に用事もない俺は、さっさと寮に帰ろうとしていた。
下駄箱に上履きを納め、靴を履こうと地面に投げ出したとき、近くて遠い場所に赤い髪を見つけた。
この学校に来て以来、あまり一人で行動しているところを見かけない赤い髪の持ち主を暫くの間見つめたあと、俺は、靴を適当にはいて、そいつの元に駆け寄る。
「……?」
走ってきた俺に首をかしげて、俺の次の行動を待っているそいつ、皐は、不思議そうに俺を見ていた。
「その……夏休みの時は、ごめん…」
「………、気に、してない」
皐は俺の言葉を考えたあと、気にしてないといった。
体育祭の前も、気にしていないといった。
けれど、俺は気にしている。
なるべくしてそうなったんだというけれど、そのきっかけが俺だったというだけだというけれど。
あんなきっかけでなくたっていいんじゃないかとも、俺は思ってしまう。
「でも、ごめん…」
謝れば済むことではないし、それに、起こってしまったことは元には戻らないんだと思う。
謝るのは、俺の気持ちを晴らすためというのもあるだろうし、本当に悪いと思ってるからってのもある。
押し付けてる、とか。思う。けど。
今更なんて、思う、けど。
何も言わないでないことにするのは、もっと違うと思うから。
「総長は、少し、変わった」
皐が頭を下げた俺の頭を軽く撫でた。
顔を上げることが出来なくて、俺と皐の足を見ながら、その言葉に泣きそうになった。
ああ、変われるんだって。
「俺も、変わる」
これからのことか、今から変わるのか。
良く解らないけれど、皐はそういう。
俺も、変わりたいし、変わっていく。
「でも、変わらない。変わらないが、いい、ことも、ある」
皐の言葉は、人より少ない。
でも、人より考えてるんじゃないかと最近思う。
ちゃんと聞いて、考える。
そう、考える。
たぶん、俺は、皐と会話するくらいの速さでものを聞くほうがいいんだろう。
答えは早く見つけなくてもいいんだろう。
「…ありがとう」
漸く顔を上げでそういうと、皐は手を頭から離して一つ、頷いた。
「総長、も、ありがとう」
「……なんで?」
「…ありがとう」
何故かはきいたけど、皐は答えなかった。
俺もそれ以上は聞かないで、繰り返されたありがとうに頷いた。






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