一日目はそんなこんなで、走り回って終わった…気がする。
部屋に帰ると、尚が帰ってきていた。
あのあと、結局クラスに帰ってこなかった尚に、ちょっと恨みがましい目を向けると、尚は何度か俺に謝った後、ひとつ、息をついた。
教室を出るまえに見せていた変な雰囲気が、少し尚に残っている。
変というか、少し、寂しいみたいな。そんな雰囲気。
「なぁ…」
「…篠原、落ち着いたらな」
聞く前に、止められた。
「つっても、だいぶ、落ち着いたんだが。まぁ、もうちょっと待ってくれたら嬉しい」
俺は、それ以上聞かなかった。
深くつっこみ、突っ走って、いい結果が出るのはそんなにない。ってことを夏に知ったからかもしれない。
でも、俺は何言われたってやるときはやるって決めてるから。
もし、尚がこんなふうに、わりと普通に話してくれなかったら、つっこんでいっていたと思う。
そして、こんな風に、静かに、問題に当たる人もいるんだなと、もうひとつ、俺は知ったような気がする。
なんか、色んな人がいるんだなって。
俺は、俺と同じばかりとは思ってなかったし、一つのことが正しいなんて、思ってなかった。
でも、たくさんあるってのが、どんな広さで、どんな深さで、どんな種類で、どんな気持ちで…なんてのは知らなかった。
見かけと『たくさん』というものの、多さばかりみてた。
形には、それこそ色々あるんだなって。
夏にそれを見た。
夏にそれを考えることを知った。
見るだけで判断できないということを本当の意味でしった。
気がする。
だから、俺は尚の今の状態を見ていられるんだ、と思う。
違和感を感じたら、駆け出していくんじゃなくて。
「…明日は俺の代わりにはたらけよ」
とかいうちょっと余裕なかんじの言葉も出た。
「おー空いてる時間にな」
ああ、そう思えば、尚は生徒会だったなぁって、今更な事実を思い出す。
生徒会は見回りとか、なんかイベントの進行とかも見てるから。すっげぇ急がしそうで。
十夜も、あのあと、ケイジョーさんと一緒に校内まわったりしてたけど、遊んでるじゃなくて、見回りとか何かの手配とかしていた。ケイジョーさんはそれを傍らでみていたらしい。と、これは遼の情報。
遼はなんか、蛇の目のスーツに緑のワイシャツと、晃二もびっくりな格好だったけれど。
一緒に来ていた皐なんか、真っ黒のスーツに、ショッキングピンクのシャツ、シルバーの鎖が三重になったネックレスなんかしてた。
二人とも指にはごっつい指輪してて、皐はピアスホール全部にピアスを通していた。他はリングだけど、耳の一番高いところのあたるだろう軟骨部分のピアスだけ、紫の蜘蛛だった。
まぁ、一言でいうと、二人とも、いかつかった。
遼が、総長七五三ですね。と笑ったのには、腹立ったけどな!
わかっていても、いわれたくねーよ!






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