ステッカーも貼り終わって、色々やることになってる文化祭二日目!
朝に生徒会室にいくと、さっちゃんがいらっしゃいました。
お部屋にいないなぁと思ってたんです。
で、朝から、顔面蒼白。
朝からって言っても10時なんだけどねぇ。
「さっちゃん、緊張?」
「……」
真っ青で気の毒ねぇ。とか他人事みたいに思いながら、俺は、携帯を弄る。
「大丈夫、大丈夫。俺ついてるし?」
まぁ、俺がついてるから、緊張して青くなってるんですがね。わかってても、俺はいうね。
「できるよ。さっちゃんだしね」
まぁ、これは本音。さっちゃんはきっとできるよ。
メールを送信すると、ポケットに入れておいた飴をさっちゃんに渡して、作業表だけ確認して、生徒会室を出る。
さっちゃんはその間無言を貫いておりました。
無口だから、じゃなくて、何か言えるほどの余裕がなかったの。
それというのも、クラスの出し物のせい。
スタートは、11時半。
それまで、あと一時間ちょっと。練習もろくにできなかった出し物。出来たら失敗なんてしたくないんだけど。でも、失敗したって誰もせめたりなんかしない。
それに、さっちゃんは失敗を恐れているんじゃない。
何が怖いのか、俺は知ってる。
知っていながら、何も言わないで、笑っていられる。
さて、所定の位置につきますかねー。
ってわけで、のんびり所定の位置にまいりました。
クラスの連中が集まり始める。特設ステージのある広場へ向かってただ歩く。
いつもイヤホン耳に突っ込んでる印象がある東海林くんも今日に限って、ワルサーP38の玩具を腰のホルスターにいれて広場へ向かう。
おっと、風紀副委員長様もトカレフみたいな玩具を持って合流。
ていうか、君ら、仲良く泥棒さんなかんじなわけね。
俺は途中合流予定なので、とあるオープンカフェでのんびりしたものです。
様子が変わってきたのは、スタートしてから15分後。俺が所定の位置について、30分後。11時45分。町内のスピーカーからやたら重たいベース音が響いてから。
集まってきたクラスの連中の半分くらいがピタッと足を止める。
さっちゃんの声がスピーカーから聞こえる。
よかった。ちゃんとやってるねぇ。
すると、足を止めていたクラスの連中は足をそろえて歩き出す。
俺はまだまだオープンカフェにてのんびり。
クラスの連中は実はまだ生では見えない。
特別に設置してもらった各所のカメラから送られる映像をパソコンから見てるのだ。
東海林くんや、副委員長な遼ちゃんたちが歩いてくる方向とは別方向から、クラスのもう半分が歩いてきている。
もちろんそちらも広場に向かってきてるわけ。
実は特設ステージ近くのオープンカフェ。
さっちゃんが何処かから…ステージ裏で歌い終わると、俺は特設ステージに向かう。
ステージ上では、お馴染みのさっちゃんのバンドのメンバー達が先ほどから演奏をしている。
そう、さっきから流れてるの、メンバーの演奏ね。
俺はステージのうえにあるマイクを手に取る。
息を吸う。
「……――」
歌詞を唇に載せると弦を弾く音がする。
俺が歌っている間に、特設ステージよこにて楽器を受け取るクラスメート達。
早く準備してくれないとこの曲短いからねー。
そして、曲が終わると、俺はマイクを持ったまま、次の曲を待つ。
なんとか準備の間に合った、2Aギャング達の一部がステージ前で隊列を組んだ後、演奏を始める。
サックスが、この日の為だけに練習した曲の伴奏を始める。
コントラバスが、バイオリンが、チェロが、クラリネットが…とにかく色々な楽器が。
もちろんさっちゃんバンドも一緒になって、たった一曲を奏で始める。
やっぱり俺はマイクをもったままで、声は楽器の一つです。と、歌い始める。
ステージで笑いながら、マイクのコードを持って、ウロウロウロウロ。
コードに足なんて引っ掛けませんのことよ?
サビの手前まで俺オンステージ!
サビの手前になる前のとこで口を閉じると、待ってましたとステージ裏からさっちゃんが歌いだした。
あれー?そろそろさっちゃんがステージに出る予定じゃなかったけ?
と、でてくるのが遅いさっちゃんの様子をマイクをもったまま、舞台袖から覗いて見る。
さっちゃんは、眉間に皺を寄せて、なんとか。
うん、なんとか歌ってた。
マイクを持つ手が震えてて。
固定スタンドあってよかったね、スタンドに立てて、なんとかなんとか歌ってる。
俺の前で歌うのを嫌がるさっちゃん。
同じステージに立ったことならあるけれど、一緒に歌うことなんて一度だって無かった。
ねぇ、さっちゃん。
練習の時すら、一緒に歌えなかった。
声さえあんまり出なかった。
あまりに、さっちゃんの今の歌う姿は痛い。
あまりに、重たい。
…この曲は、デュエットだ。
声が重なるサビの部分。
さっちゃんがなんとか歌っているその歌をすくい上げる前に、俺はさっちゃんに近づく。
なぁ、さっちゃん。
怖いんだろ?
…俺が。
スタンドマイクのスイッチを素早く切って、素早く俺の持っているマイクを、俺とさっちゃんの前に差し出す。
俺を見て、動けず声が弱くなりそうなさっちゃんに、笑ってみせた。
優しく頭を撫でると、サビが終わる。
間奏が流れる中、口をパクパクと動かすと、さっちゃんが目を見開いた。
持っていたマイクを渡すと、もう、さっちゃんは震えていなかった。
一歩一歩確実に歩きながら二番を歌いだす。
右手をつないでステージに戻ってきてサビを歌う。
なんだかんだ、この曲短いなぁなんて思いながら、口を閉じると、クラスの皆がステージ前から演奏しながら横にそれていた。
まるで、一瞬で、一息で終わってしまうよな曲が始まる。
二人で歌いだす。
はもりもしないで、同じ調子で伸ばせるだけ、息が続くだけ。
眉間に寄っていた皺はすっ…と消えて。
重なる声が軽くて、何処までも伸びて。
気持ちがよかった。
ああ、ほら、二人でも楽しいじゃん。
音もなく、汗じゃない水分がさっちゃんの頬を伝ってる。
こっちを向いたその顔はうっすらわらってて、嬉しそうで。
大丈夫、大丈夫なんだよ。
さっちゃんの音が伸びてのびて、最後に震える。
ビブラードじゃ誤魔化せないよ、皐。
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