本日の正午にあわせた大イベント、2Aギャングはこの街を支配したのでちょっと盛大に祝ってみた。とかいうクラス内でのふざけた名前のイベントはそんな感じで終了した。
午後にある見回りは他の役員や、係の人のやってもらうことを最初からきめておいたから、俺とさっちゃんは実はフリー。
さっちゃんが、声も上げずに泣くから、とりあえずひと気のない、今は使用していない仮設の控え室みたいなところで俺がさっちゃんを隠していた。
だって、さっちゃんが泣くなんて前代未聞よ?
…俺のせいだけど。
「さっちゃん、もうそろそろ泣き止んでくれないと、冷やしても間に合わなくなるよ?」
なんて、なぐさめにもならないこといってたら、首を振られちゃった。
「…こう、じ、…が…ッ」
つまりながら、話してくれようとする姿勢がなんだか可愛くて、ニヤニヤしそうになるのを止める。
だって、可愛いものはこんなときにもかわいいでしょ。
「あん、なこと…、ッいう…」
「『やることは、ひとつだ』?」
さっき口パクした、言葉。
さっちゃんは、改めてそれをきいて、俺にぎゅーって抱きついてきた。
懐かしい言葉。
俺が、中学生のとき。
たぶんさっちゃんに初めて会ったとき。
といっても、今年の皐月祭まで忘れててさぁ。しかも、さっちゃんあのときの面影皆無で。
いやいや、俺もあのときとぜーんぜん違うんだけど。
皐月祭でようやくさっちゃんと、それをいった少年が一致したわけなんだけど。
あんな、脅し文句みたいなことば、こんなときに支えみたいにしてるさっちゃんにとっては、たぶん、意味あったんだろうなぁ。と思う。
あのときさー別に、何も思ってなかったとおもうんだよね、俺。
今も、なんか特別、ではなかったんだけど。
さっちゃんは、覚えていたから。
俺が皐月祭で口にしたときも、何かいいたそうにしてたから。
「…さっちゃん」
抱きついてくるだけで、もう何も言えないでいるさっちゃんに、俺はもう一度声をかける。
「皐」
顔を上げたさっちゃんは、鼻水啜りながら、目は真っ赤にしてて、ちょっと目元腫れてる。
さっちゃんは、泣かなかった。
辛くても、しんどくても。
悲しくても、痛くても。
泣かなかった。
ただ、息継ぐ変わりに歌ってた。
苦しそうに、叫ぶように、狂うように、歌ってた。
だから、俺に聞かれたくなんてなかった。
一緒に歌うなんて当然無理で。
心境の変化が少しずつ訪れたのは、夏に一度はっきりと俺が自分自身の気持ちを言ってから。
俺もそのとき、一度、さっちゃんとの関係をクリアにした。終わらせた。
夏の終わりに、はっきりと終わらせて、始めた。
さっちゃんを、欲しいと思ったから。
『愛人』は終わらせて、真面目にお付き合いの方向で。
けど、さっちゃんはそれが信じられなくて。
そうだよねー、形にしても言葉にしても、曖昧だし、突然だもの。
ゆっくりでいいから信じてといいながら、俺もフラフラとやっぱり曖昧な心持ちで。
けれど、確かに、俺に振り回されるさっちゃんを愚かしく、それ以上にいとおしく思ってた。
さっちゃんの頬を撫でて涙のあとを消したあと、次から次から出てくる涙を拭わぬままにして、唇に軽くキスをする。
「できたでしょ?さっちゃんだもの」
それだけは、確信してた。
だって、さっちゃんだもの。結局前を向いて逃げることができない、不器用なさっちゃんだもの。
…本当は、歌えなければいいのにと思ってたんだけど、さっちゃんだもの。
「俺の、さっちゃんだもの」
顔面蒼白で、震えてマイクももてないくらいなのに。
マイクの前に立って、結局こうやって、泣いて。
歌っちゃうんだもの。
そういうの、カッコいいと思うよ?
「そういうの、ダメかにー?」
さっちゃんは、何も言わないで、首を振った。
「こうじが…ッ」
「うん」
「…俺が、こうじの…ならッ。こうじが、自慢できる、俺ッ、で、ありたい…ッ」
「返事として受け取ってい?」
「…ん」
もう一回、涙を拭うとさっちゃんが笑った。
俺はもう一回キスをした。
誓いのキスみたいだとか。
ロマンチスト。






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