予餞会は突然に。


この学校は普通ではない。
そういうのは結構前に気がついたけど、まさかのまさかだ。
卒業式はこの辺では一番早い二月ということで、12月現在、予餞会という奴がある。
それは、現生徒会長の皐の言葉からはじまった。
生徒会長送辞、と、卒業式でもないのに送辞を始めたこと自体、すでにおかしかった。
「送辞。…三年生の諸先輩方、ご卒業おめでとうございます。そして、さっさと出て行けてせいせいすらぁ…という先輩方の晴れ晴れしいお顔を見て、私どもの心もさっさと出て行ってくれてありがとうございますと晴れやかです」
え、何か、ところどころに混じる言葉が…。
と思って眠いのを耐えていた俺はステージを見上げる。
「お世話になった先輩との別れはちっとも寂しいものではありませんが、学園祭や部活で大変お世話になったりもしたので、厳しくも心温まる温情を忘れることはありません。在校生一同そんな先輩に負けず、新規一転、後輩を苛め抜くこと、益々頑張ることを誓いますので、何卒ご安心いただければと思います」
それ、安心できねーし!とつっこむことすら俺はできない。唖然である。
「これから、大学ならびに社会人として巣立って行く皆様においては、今日のような晴れがましい期待と、新しい世界への旅立ちに不安もあることでしょうが、この3年間を通し、学校で学んだことを礎にすれば、必ずや不安が期待に、期待が現実に、夢が叶うと確信いたします。皆様の根性は見上げたものです」
根性とか、そんなん…なぁ、ちょっといいの?と思って回りをみると、皆ニヤニヤしてる。え、いいの?
「幾多の苦労が待ち受けているかもしれませんが、苦労という影が濃くあれば、あるほどそれを映し出す、光は強いとももうします。決して苦労から逃げることなく、真正面からぶつかって、それを乗り越えてください。苦労した分だけの成功が待っているように思います」
至って普通のこといってるけど、前置きがひどくて普通に聞こえない。なんだ、これ、皮肉ってるみたいだ…。
「僭越な送辞になってしまいましたが、これまでに育ててくれた先輩に感謝とお礼の気持です。今まで大変お世話になりました。さっさといぬれや、卒業生……生徒代表、灰谷皐」
何か心温まらない言葉を聞いた気がしてならない。
皐はステージの上でふふんと鼻で笑うようにしたあと一礼し、生徒会席に戻っていった。
そのあと、元生徒会長答辞なんて、やっぱり卒業式でもないのにあったりして、さっきのに、何って返すんだろうと、ちょっとワクワクし始めた俺はもうすでにこの学校の生徒だとおもう。
「答辞。…卒業生諸君、私はこの学校が好きだ。在校生諸君、君たちのいいたいことは大体理解した。気持ちよく我々を追い出そうという気は更々ないようだ」
どこかできいたことのあるような答辞を元会長はさらさらと、広げた紙を見ることもなく、言っていく。
横暴だー!闘争だー!戦闘だー!と三年生側が煩くなった。元生徒会長は少し目をほそめて、す…と手を横に動かす。
三年生が静かになった。
「よろしい。ならば戦闘だ。我々は満身の力をこめて後輩を完膚なきまでに打ちのめそう。…だが、この講堂の中であることないことを言葉にされ、堪え続けてきた我々にただの戦闘ではもはや足りない! 大戦闘を!一心不乱の大闘争を!」
え。そんな長い時間じゃないし、耐えてないだろ…と思いながら、俺は元会長を見る。
なんだか生き生きしてる気がするし…。
「我々を忘却の彼方へと追いやろうとし、ずうずうしくもこんな最中眠りこけている連中を叩き起こそう」
あ、すみません、それは俺もさっき寝そうになってただけに…。
「連中に我々の威厳を思い出させてやる。連中に後輩の自覚を思い出させてやる」
あの送辞じゃ、確かにそうなるかもしれない。なんて思った。
まわりはニヤニヤと笑みを浮かべたままだ。
「第○○回、予餞会、開始せよ。征くぞ、諸君」
って、開会宣言かよ!
後輩が嫌がる送辞を読んで、それに対して攻撃的な答辞を読むのが、毎年の開会宣言らしい。
その時そのときによって、開会宣言は違うみたいだけど。






next/ 二人の変装top