予餞会というと、歌ったり踊ったり、劇したり、映像みたりってのが普通らしいんだけど、この学校はやはりちょっと違うらしい。
予餞会も生徒会お披露目の時のように、生徒会の仕切りによってやるイベントで、これも毎年違うようだ。
今年は鬼ごっこ…って、鬼ごっこ?高校生なのに、鬼ごっこ…。
と思っていると、回りは頑張って準備中だった。
「鬼ごっこマジ本気か…」
「あー。そりゃな。この鬼ごっこで、風紀選出してるって噂もあるし、商品とかタダなのに豪華というか…」
皆して準備運動してやがった。
てか、タダなのに豪華ってなんだ。
そんな中、生徒会のキラキラした双子が説明を始めた。
「はーい皆やる気なのはいいけど、説明きいてくださいねー」
はーいって皆、お返事がいい。
「じゃあ、説明するぞー。ルールは簡単!鬼は在校生の皆さんでーす。在校生の皆さんは、卒業生の腕を掴めばオッケー。卒業生のみなさんは腕を掴まれたら、ここまで戻ってきてください。ただし、危険行為は反則とみなされまーす。殴る蹴る等、した場合、即、失格です。風紀委員と生徒会役員が見回りをします。あと、見かけた人は何もでないけど、報告してくれると大変助かります」
まぁ、鬼の多くて鬼が変わらない鬼ごっこだな。
「卒業生の生き残った方には、なんと!商店街で一番人気の幻のプリンと、焼肉食べ放題券を差し上げます。在校生で一番卒業生を捕まえた方には、文化祭でも大人気の家庭教師二人の三年間のノートのコピーを提供いたします」
なんか、俺、卒業生の景品が欲しかった。
と、思ってたら、回りは意外とやる気でした。
「え、なんで、大人気」
「ここ、一応進学校だしね、すけちゃん。あと、テスト前が楽になるし?それとあの二人のノートとなるとたとえ勉強しなくても、欲しいって奴に売れるし。最後に、単純に体育会系部活の連中は先輩に脅されてるし、文化系のやつとか興味ない奴は先輩と好きなだけ駄弁るためにもさっさと捕まえてここにもどってくるやつらとか多いわけ」
仲いいんだな。という感想をいう前に、卒業生がスタートをした。
卒業生は本気というか…何かとても楽しそうに走っていく。
「楽しそうだなぁ」
「当然。卒業生はここで最後の大きなお祭り騒ぎだし」
良く学び、よく遊べだったっけ?
三年間だか六年間だか…とにかくよく遊びよく学んだ卒業生としては最後は楽しみたいものなのかもしれない。
なんとなく、わからなくもない。
「さて、適当に走って適当に捕まえますか」
って、それでいいのかよ!
在校生のスタートの合図が出されると、シュウちゃんは一度背中を伸ばして、ゆっくり走り出した。
俺も、スタートの合図と共に歩き出す。
「すけちゃん総長やる気ないねぇ〜」
講堂に残っていた恭治が遠くで俺を指差してケタケタ笑っていた。
傍らにいた双子の一人が、『指さしちゃいけません』といって、恭治の人差し指を叩き落としていた。
ざまみろ。
歩いていると、結構歩いている奴を見かける。
生徒会役員だったり、風紀だったり、生徒会役員だったり…って、役員ばっかりじゃねぇか。
「少年一生懸命走りなよー若いんだから」
一歳しか違わないだろ。というツッコミは心に秘めて、俺は、声のしたほうを振り向く。
晃二…と皐だった。
「風紀委員長、生徒会長と副会長がさぼってます」
わざとらしく挙手をし、近くにいた十夜にいってみると、十夜は溜息をついた。
「サボってんじゃねぇよ、皐、那須」
「いやぁねぇ。サボってないじゃないのよー」
カマっぽい口調でニヤニヤ笑いながら、ホイッスルのヒモを指でグルグル回していては、説得力がかけらもない。
皐は晃二の背中にべったりとくっついたまま、遠くを見詰めている。
一応皐は仕事をしているらしい。
「皐は一応はしているようだが、那須は確実にサボりだ。そのくせ要領よく摘発とかしてくんだろう、おまえは」
心底嫌そうにそういった十夜に、皐がいきなり声をかけた。
「西…違反者発見」
さっそうかよ!
と、皐が見ている方向を見る。
Dクラスの先輩と後輩がどうやら喧嘩をしているらしい。
「喧嘩おさめなんて、冬休みにでもやりゃあいいのに」
ぽつりと呟いた晃二のいうことはもっともだ。
しかし、喧嘩はぼやいても止まらない。
「ほら、那須、喧嘩治めて来いよ」
「さっちゃーん」
「…晃二、の…蹴り、見たい」
喧嘩止めにいくんじゃないのかよ。
「あ、一発KOオッケーだっけ、委員長」
「あの具合ならな」
「オッケ」
晃二が頷くと、皐が晃二から離れた。
晃二はそのまま走り、喧嘩中の連中を蹴り一発で沈めていった。…てか、強え!初めて晃二が喧嘩?してるとこみた。
「強ぇ!」
「篠原さん、参加しないで下さいっすね」
そんで、俺は十夜に注意された。
くやしくなんて、ないんだから…。






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