パシリは忙しい。
そんなパシリにも、なんだかよくわからないラッキーなことってのは起こる。そう、起こるもんなのだ。
パンが置いてある売店の近く、そいつはベンチで寝ていた。
「どっかでこの顔見たことない?ねぇ」
あまり目的以外を見ない俺は、売店ばかり見ていたのだが、山田の声に振り返り、そいつの顔をみた。
俺の片思いの相手だった。
相変わらず、見てるだけの、存在。
ああ、かっけーなぁと思って眺めた俺、パシリ。
さすがに昔より格下がりすぎなんじゃねぇだろかって、パンを買って俺は自分の手を見た。
なんでこんなところに消えたはずの男がいるのかというのは、俺の両手に持ったパンがどうでもいいことにしてくれた。
見るのなんて自由なのに、どうしてだが、この違いが俺にやる気というか、さすがにこれはねぇかなって気を起こさせてくれた。
俺は山田に教室に行くと言って、さっさと教室に向かった。
「本日をもって、パシリ卒業することにした」
「ア?」
花井にパンを渡しながらいうと、花井が怪訝そうな顔をした。
俺はもう一度桜井に言う。
「パシリ卒業だ」
「ふざけんな」
花井のふざけんなに、俺は思わず笑った。
ふざけんなというべきなのは、俺だ。
最初に花井にパシリに指名された時点でそう言って良かった。
「てめぇこそ、ふざけんな。俺は、やめるといったらやめたいんだっつうの。別に弱くもねぇし強くもねぇけど、一番下っぱなんて好きでやってるわけでもねぇから」
ただ、争いごとをする気力がその時はなかっただけなのだ。
俺の胸倉をつかみ、突っかかってこようとする花井の首に腕をかける。俺は花井より先に拳を花井の腹に叩き込んだ。
曲がった身体に更に膝を叩き込み、腕を花井から離し、花井の髪を掴み、更に追撃。
俺を追いかけてきた山田が驚きに目を見開き、こういった。
「……勝ち逃げのメイ」
勝って逃げたことなど一度もないのだが、何故か、仲間うちでもいやに人気のある名前だった。