最弱の一年。
結局俺が頭を潰してしまったことにより、俺がまとめることとなった学年は、そう呼ばれていた。
なるほど、Eで最弱を誇った俺に負けるわけである。
俺のことを噂程度に知っていた山田は、俺の強くないという言葉にやはり微妙な顔をしていた。
「おい、田中ってのはどいつだ?」
花井が殴りかかってくる前に花井をボコした俺であったが、一応のまとめ役として一年のトップに立っていた花井とは、何故か兄貴と舎弟の仲になっていた。
花井曰く、そういう気概がある連中はここにはいないんだそうで、俺が下剋上のような真似をしたのが大変気に入り、俺がこうして上の学年の先輩に呼び出されるたびに無傷でかえってくるところを尊敬しているらしい。
「田中くーん、先輩呼んでるよ」
山田の声に、俺は立ち上がり、今日も見も知らぬ先輩と屋上か裏庭か空き教室にいくのだ。
普通ならば、呼び出してくれる先輩方がしたいことは、調子に乗るなよ、一年。そう釘を刺すか、生意気な一年がどれほどのものであるかを確かめるといったものだ。
釘を刺しにきたのなら、それを真摯に聞いておけばいいし、そうでないのなら、俺が殴られるか、俺が殴ればいい話だ。
しかし、この学校は他とは少し違っていた。
まず最初に俺を呼び出したのは、この学校をしきっているヤンキーだった。
もちろん呼び出しに来たのは他の先輩だったのだが、この学校をしきっているヤンキーはどうも、俺に興味があったらしい。
「なんで今更、花井に逆らった?」
今の今まで大人しくしていたのが、急に下克上してしまったのだから当然、疑問に思うだろう。
俺は大変素直に答えた。
「好きなやつがこの学校にいたんで、ちょっといいカッコしておこうと思って」
普通ならば、ふざけんなといいたいところだ。いい格好をしたいのなら、爽やかにスポーツでもしておけばいいのだ。
「は?」
「それで、先輩にお聞きしたいんですが」
「いや、お前、ちょっと待て」
「はい」
「本気か?」
「本気で」
「……、……よし、協力するから、詳しく話せ」
先輩は笑いたいのをこらえているようだった。
そう、この学校のトップは笑いのツボが浅かった。
俺が至極真面目な顔をしていいカッコがしたいとかいうものだから、面白かったのだろう。
数分後、何故か二年のトップまで巻き込んで『田中くんの恋を応援し隊』が出来ていた。ちょっとした迷惑行為である。
よって、こうして可愛げのある後輩として先輩方に見られている俺は、激励されているか二、三年の先輩方に普通に後輩として可愛がられているか…とにかく、殴り合いになった覚えがない。
なぜ、見るたび違う先輩かというと、『田中くんの恋を応援し隊』の人数が増えているからである。
最近、一年のやつにもたまに、頑張れよと声をかけられるから、劇的なブームになっているに違いない。
「花井くんもそのうち知るんだろうなぁ…、カッコつけたい発言」
「ぼこりにくるだろうな」
「だろうねぇ…でも、花井くんつよくないから…」
「そうだな、花井は強くねぇもんな…」
先輩から開放された俺は、山田と一緒にしみじみつぶやいてしまった。