とにもかくにも、ちょっと格好付けたかっただけで行動してしまった俺は、先輩方が期待する田中くんの恋の行方という奴に興味がなかった。
格好はつけたかったが、だからといってどうにかなると思っていなかったから、余計にそうだ。
だが、先輩たちは本人を余所に盛り上がった。
俺が最初に格が違うからあきらめているが、さすがに違いすぎると現状の自分自身が情けなくなって…と説明してあったせいで、先輩方はまず、俺のスキルアップと俺の好きな奴の情報を集めてくれた。
俺の好きな奴は、志賀崎青海(しがさきおうみ)と言って、俺が知っているかぎりでは、シガと呼ばれていた。
この学校でシガは大変な有名人だった。中等部の狂狼と呼ばれているらしい。
そう、シガは中学生だった。
どうやら、この学校にはいったから消えたらしいこともわかった。
年齢不祥なシガは中学生らしからぬ外見をもっているため、だまされた気分だった。
話した事もあまりないし、わからないのも無理はないのだが、それにしても、出会った時など小学生ではないかと、大変自分自身に何か思うことがあった。
俺が衝撃に耐えている間にも先輩方は情報をくれる。
シガは父母の再婚により、この学校に転入。その後、誰と仲良くなることもなく、中等部のヤンキーどものヒエラルキーの頂点に立ち、今現在、孤高の狂える狼と恐れられているらしい。
高等部でその様子を眺めていた先輩方は、一人なのはシガが他の人間に興味が薄いからであるとか、狂えるというのは中等部連中の捏造であるとか、孤独ときたら狼だろうという安直なネーミングだとかであると判断したらしい。
成程、昔見ていた俺からしても先輩方のいうとおりだと思えた。
そして、先輩方には非常に残念なことだったらしいのだが、シガの片想いの人物は、この学校の中等部生徒会会長であるそうだ。
中等部生徒会会長には好きな人の影すらないそうで、有料物件であるし、勝ち目はないかもしれない。
先輩方はそういいながらも、目を輝かせた。
先輩方はこうもいった。
田中くんが頑張れば、きっとこの学園の番長にはなれる。協力は惜しまない。
つまり、俺を会長くらい無視できる男にすれば問題ないと。
俺は、そうして、学園の番長とやらになるべく、何故か最近は、色んな先輩方に会うたびに拳を、もしくは足を向けられるようになった。
不意打ちの一撃目だけなので、なんとか避けているのだが、彼らはそれを見ると何だか満足気にさっていく。
激励してくれていたのが終わると、そんなことが始まったので、俺としてもわけがわからない。
「勝ち逃げのメイなら別に今すぐなれるでしょ」
なんて山田は言うが、俺はそう思わないため、いつも首を振る。
「いや。つか、その呼び方、やめろ」
「えー?じゃあ、速攻のメイ」
「まぁ、それなら…マシか」
勝ち逃げも速攻も、俺が先制攻撃をしかけることで付けられた名前だ。
誰よりも早く、誰よりも先に、喧嘩の中心人物、もしくは喧嘩を指揮する人間、トップをはる人間に手を出し殴りかかる。
それが俺だった。
結果はさておき、誰よりも早かった。
成功例がどうも目立ってしまい、勝ち逃げとかいわれてしまった。
「ね、それで、番長のことはいいとして。もどさないの?」
「何を?」
「カッコー。前のがよかったよ。ちょっと今ださいよ」
「ダサくしてるんだから当然だろ」
「え、カッコつけたいんじゃないの?」
俺はあいまいに笑って誤魔化そうと思ったが、山田はごまかされなかった。
「カッコつけるんでしょ?」
「いやだって、ここでめだつっつうのはさぁ」
山田の今の状態をみるといただけない。
山田ほど目立つこともないだろうが、今のヤンキーにすかれているのと、なんかよくわからん小さいのにすかれているのでは状況が違う。
山田にキャアキャアいっている小さいのは、ちょっとよくわからない生き物にしか見えない。
「いや、気持ちはわかるけど。ミーハーなだけで、普通といえば普通だよ?」
「普通なぁ…」
「田中くんだって男に恋しちゃってるじゃん。ここ、普通になってるけど」
「だよなぁ…俺もなんか、抜くまでは抵抗してたんだが、かなうわけでもねぇし見てようってなった時点でなぁ」
「……田中くん、即物的ね」
「まぁ、抵抗できない事実だなと……いや、抜いた時はなんかもう自棄んなったがなァ」
見た瞬間に予感もしてしまっていたし、これも、仕方ないかとティッシュをゴミ箱に捨て、殴り合いに行った夜もあった。
今となっては、夜中の珍事など消したい過去である。
そう、恋をしたからといってかなえなければならないわけでも、かなうわけでもない。一過性のものだと思おうとしたから、放っておけた。
ただ、久しぶりに顔を見て、やっぱり好きで、好きだと思って、急に後も先もなくなって、今、こうなっている。
「好きだと、思っちまったしなァ…」
「じゃあ!頑張ろうか!」
そうして、何故か俺は専属スタイリストまで手に入れていた。
その専属スタイリストは、先輩方にこっそり昔の俺をリークした挙げ句、ヤンキークラストーナメントなんて開催してくれた。
おかげさまで高等部ヤンキークラス次代ボスになってしまった。
next/ 裏top