どうしてこうなった



あれはまだ、この学園にぶちこまれる前。
降水確率は九十で今にも降りそうな曇天が、薄暗がりの街灯で、ぼんやりと見えていた。紫と灰色というには白くも青くも見える、重そうな、雲だった。
その日も誰かに追われていて、まいた直後。
ずっと見ていても飽きない顔の幼馴染より、えらくフランクな顔をした男があらわれた。
この辺りでは誰もが知っているEというチームの、あまり知られることのない構成員の一人だった。
「午後の降水確率は90パーセントだ。もうすぐ降るぞ。すぐは止まねぇから、早く帰れよ」
そいつを避けるみたいに身体を動かすと、そいつは笑った。
「余計なお世話か」
そういって、誰かと一緒にどこかへ行った。
それだけの出来事が俺はどうしてか忘れられず、そいつの所属しているチームを見つけだした。
その頃のEのヘッドは、今より二代前のヘッドで、田中鳴士(たなかめいし)が副を務めいた。
俺が忘れられなかったのは、その田中鳴士ことメイだった。
Eには敵前逃亡をしないことと後一つ、その代のヘッドによって特色がある。
今期なら精鋭。前期ならば速攻。俺がメイに初めて合ったときは強奪。
ほしいものは正面から奪え。
それがその時のEだった。
だからこそ、その時俺がEに出入りすることを条件付きで、その代のヘッドは許可した。
欲しいなら奪ってみろよ。そういわれているような気がした。
俺は、ヘッドに言われるまま年齢を偽り、目立ちすぎる姿を隠し、メイに近寄ることになった。
忘れられない理由がわからないまま、後輩として接した。
メイのそばは居心地がよかった。
姿を隠したまま、どうしたらずっとそこにいられるかを考えた。
後輩として傍にいることは、もうできている。それより近くにいきたくなって、俺は何故か、メイの目的になることを選んだ。
メイは誰より何より、先に、目的へと向かう。
だから俺はメイの目的になろうと、思った。
チームを作って、トップをはる。それだけで目立つことができる外見と噂をもっていたから、喧嘩は楽に、できた。
けれど、その頃には強奪から速攻のEにかわっていた。
Eは途端に目立たなくなり、俺はメイの目的になり損ねた。
俺は逆恨みのように、この辺りで一番強いと言われるチームの見知った顔を睨み付けることしかできなかった。
知っているだけに、恨むこともできず八つ当りにしかならないそれで睨み続けた。
俺はバカだった。
そうやって睨み続けたせいで、そいつ…幼馴染に見つかり、最終的に確保され、夜な夜な外に出て家に帰らない俺の根性をたたき直すとか言われてある学園の寮にぶちこまれた。
ある日、なんとか寮を抜け出してこそこそとEの溜り場に向かった。やけに静かだった。
「そんなわけで、俺、抜けるわ」
メイの言葉が、響いた。
「メイさん、あんた何言ってすか…」
久々に顔を見せた俺に、久しぶりだなんて笑うくせに、俺が止めるのは聞いてくれず、メイはEから出ていった。
俺と同じ時期に入り、一番仲がよかったシマが教えてくれた。
メイは、前のヘッドが無理矢理ヘッドを押しつけて出ていったから、チームが落ち着くまではと一年程ヘッドをしただけらしかった。
前ヘッドについていった連中は多くて、Eはすっかり小規模になり、その名前を隠していた。
メイは受験生で、時期的にも今がちょうどいいといって、ヘッドは皆で決めろと少なくなったメンバーに言ったそうだ。
メンバーは皆、メイを引き止めようとしたが、メイが理由を話して、そういうわけだからというと、皆は何も言えなくなった。
メイの目的は、今、試験に合格することしかないと理解したからだ。
メイが目的を見ると、他のことは大抵無視だ。
皆はそれをよく知っていた。
「そんなわけだから、おまえ、ちゃんと戻って来いよ。そっちのもこっちにつれて来ればいいし」
「シマ、なんでおまえはしってんだ?場合によっちゃ、相手がおまえでも殴る」
「ちょっとした興味で、調べさせた」
この時分からシマはちょっと後ろぐろい伝手をもっていた。
俺は、しばらくシマを睨みつけたあと、顔を背けて呟く。
「……やァーなかんじ」
「そういうな。俺だって気になってたんだ、ツレの行く末」