そういうこともあらぁな



あれよあれよともちあげられ、次代のボスとなってしまった俺の周りはなんだか騒がしくなっていた。
騒がしいのは嫌いではないのだが、一人の時間も少々ほしい。
山田に断って、学園の誰もいなさそうなところでくつろぐことにした。
それは、不気味な森で、くつろぎたいと思える場所ではなかったのだが、何故かあずまやがあり、既に誰からも忘れられているのか、苔が繁殖し、草は生え放題、屋根も機能を果たしていなかった。 だが、それも直せば何とかなるだろう。くつろぐ場所がなければ、作ればいいの精神で、俺はそこを地味に整え始めた。
こういう、地道な作業は嫌いではない。
暇があればそこに通ってあずまやを整えていたのだが、その日は屋根に登って、屋根の修理をしているところだった。
何か中等部側の森が騒がしいなと、屋根から森を見ていると、やがてこちらの方に、よく見たことのある顔の男がよろよろふらふらと、隠れながら歩いてきた。
「シガ?」
俺は思わず呟いて、そこまで高くない屋根から飛び降りると、中等部の森へと踏み込んだ。
先輩曰く、中等部と高等部は縄張り意識が強すぎてにらみ合っているらしい。
だが、俺にとって、フラフラして、隠れなければならないような事態になっているシガの方が大事である。
遠くから眺めておこうとかいっている俺にしては大胆な恋心があったものだ。
シガの死角から近寄り、腕を伸ばす。
素早く口を押さえ、背後からやってきて、いかにも怪しい俺に、シガの肘が入る前に、シガの利き手を封じる。
「怪しいもんじゃ……いや、怪しいんだが、危害は……口押さえておいてなんだが……怪しくていきなり背後からとらえているが、けして、悪いようには……もうすでに悪いのか……」
もう何と言っていいかわからないまま、とりあえず俺の声を聞くと危機感からかぴたりと動きを止めたシガを引っ張って、あずまやに隠した。
なんだか男とは思えぬ中等部生が、シガを探していたようだが、見つけられず、高等部の敷地には入っていないだろうと判断したのか別の場所へと消えていった。
あとに残されたシガはなんだか、息が荒く、心持ち、体温が高い。
俺は、シガを押し倒すようにして隠していたわけだが、なんだかおかしいシガをふと見て、俺は首をひねった。
「まさか、怪しげな薬とかのまされてねぇよな」
そのまさかだったわけだが。
シガは俺の下からジリジリと這い出ようとしていたのだが、俺があまりにご立派そうなものを見るものだから、動けなくなっていた。
それらしい接触もしたことがないのだ。
俺を見て反応するなんてことは考えていない。
媚薬をつかってどうのこうのする輩がいるらしいと先輩方がいっていたのを思い出す。
シガはどうのこうのするにしては、ちょっと根性がありすぎると思うのだが、ちょっと油断して食べ物だの飲み物だのに混ぜられてしまったら、こうなっていても仕方ない。
仕方ないですませられないのが俺の恋心というやつで、好きな奴が大変な状況だというのに、声をかけることもできず、状況がわからなすぎて憤慨することもできず。
こんな状態を知らない奴に見られて気持ちがいいだなんて、そんな趣味をシガが持っているともい思っていなかったため、俺は急いで立ち上がる。
「あ、えー……俺、席外すからっつても、襲われたら困んだろうし、あー…あー……抜く?」
よけいなお世話って奴だと思う。
シガが俺を睨みつける。
当然の行為だ。
俺は睨みつけられたまま、混乱もしていたためか、また余計なことを言った。
「じゃあ、セフレと思ってくれりゃいいから」
いや、それもねぇだろ、こんな選り取りみどりそうなやつに、野郎の、しかもカワイゲも美しさもねぇ野郎のセフレ。
「……ッでも、いい」
シガの返事が何でもいいだったのは、たぶん、なんでもいいからどうにかしてくれという救難信号だったと思う。
俺はそのとき、色々飛び越しちまったななんて、途方に暮れたもんだ。