シマさんが絶倫を発揮すると、しばらくの間、ヘッドは使いものにならない。
ある意味こちらは一安心である。しかし、ヘッドが悶々とし始めると、俺たちはシマさんに縋り付きたくなってしまう。
ヘッドの理解できないフェロモンが、どうあっても健在であるからだ。
ヘッドにその気がないため、ヘッドにいたされることはない。その代わり、溜まり場が途端に爛れてしまう。
外に発散しに行ける連中はいい。そうでない連中は、溜まり場に残った奴らでうっかりなんてこともすでに起こっている。
風紀を正したいと今更言う気もないが、毎日毎日、換気を促すようなことはしたくない。
「シマに会いてぇ」
「会いに行けばいいじゃないすか」
「今は無理だ。マジ、見ただけで足開いちまう自信がある」
そんな自信はゴミの日にでも捨てて来て欲しいものだ。
最近はこうして、シマさんについて会話をするのも飽きてきた。
「じゃあ、ヘッド。どっかに気晴らしでも……」
「大変です!ヘッド……!……う」
破壊するほどの勢いではないが、うちのチームにしては珍しい勢いでドアが開いた。
そのあとすぐに言われたことは、呻き声で何が大変だと問うのを躊躇わせる。
「あ?」
しかし、ヘッドの横着な問いかけが先を促した。
「ッ、Eが、クソみたいな連中に狙われてるらしいす!!」
「ああ?俺よりか?」
自覚があるなら治せないものなのだろうか。
そういうヘッドもヘッドであったが、答えた舎弟も舎弟だった。
「以前のヘッドよりクソで、シマさんの絶倫カウントよりひでぇす!」
絶倫カウントというのは、シマさんが絶倫を発揮する前に行われることだ。
俺たちがバカップルの被害にあわないようにと、シマさんが絶倫を発揮する前に、心ひそかに各個人がカウントしているのである。
それにしても本人を前にして言われたこともだが、シマさんを引き合いに出すのも大変よろしくない。
だが、ヘッドはそのくらいでやつあたりするたまではなかった。
「マジかよ!面白え!」
自覚があり、シマさんのことも認めているのなら、本当になんとかしてもらいたい。そうして手を叩き喜んで、笑っている場合ではない。
「そいつら、叩き潰してやったら面白えだろなぁ」
面白い気分になれないのは、何故だろうか。
ヘッドが面白いだの欲求不満だのと言って、行動するとろくなことになった覚えがないからだろうか。
俺は心の中で水平線を思い描き、平静を保とうとした。
「しかも、気持ちぃーか?あー、やりてぇ」
絶対ろくなことなどない。
俺の心は高波に飲まれた。