俺は仕方なく構える。
セブンのヘッドはつよい。
今日は気まぐれにも鉄パイプなんてものを持ってきているが、日によってはもっと殺傷能力のあるお道具を持ってきたりしている。
高枝切狭とか。あれは本当にいたそうである。見た瞬間から逃げたくなる。
対する俺は、少し勘が強いだけで、武器といえば拳と足くらいだ。
一歩二歩と踏み出し、三歩目で床を蹴り、四歩目で着地、五歩目を踏む前にその足で実美の鉄パイプを持った手を蹴り上げる。
五歩目を素早く床に叩きつけるように下ろすと、五歩目の足を軸に反転。六歩目でローキック。
実美が嬉しそうに笑った気がした。
実は、セブンのヘッドとこうして正面衝突するのは初めてではない。
少し前に、他の連中がいきり立って、それをとめに行った時に、向かい合うこととなった。
その時の武器は確か、竹刀だったと思う。とにかく長い武器が好きらしい。
その時に、俺はロマンチストになった。
一目、見ただけだった。
面倒だったのか、脱色もそこそこに染められた赤い髪の毛も、皮肉に歪む口元も、余裕綽々のその表情も、男らしいと言われてしかるべき男前さがあったのに、ガタイもいい男だったのに、そう、一目見ただけだった。
どうしようもなく、欲情した。
やばい、ダメだ、俺、ロマンチストどころじゃねぇ。飛び越えすぎてそういう変態だと思った。
俺はそれ以来、セブンとの正面衝突を避けていた。
避けて然るべきだ。
できたら、変態でお縄頂戴にはなりたくない。
「なんで、俺が大人しくしたらこう…」
次第に俺は苛立ち始める。
「あ、やべ」
つぶやきが聞こえた気がした。
俺が苛立ち始めると、すぐに何かがぶっちぎる。
本当にすぐだ。
「それとも腰が立たなくなるほど、ヒーヒーいわされてぇの?」
いうが早いか、俺は拳を突き出した。
「それで、あんだけ…あんっだけ、喘がせておいて逃げられたのかァ?」
「……おー…」
俺は鉄パイプのせいで穴が空いたソファの端に正座をしてうなだれていた。
「やだぁ…ヘッドぜつりーん!死んじゃう!セブンのヘッドが死んじゃう!ってマジ心配して真っ青になっちゃうやつもいたのに…」
「そこまでだったか…やだ、俺恥ずかしい。今すぐ穴に埋まって窒息したい」
素直な気持ちを言葉にすると、ツレは困ったように笑った。
「あんなにしつこくてなげぇのはじめてだったから、本気なんじゃねぇのって話もしたけど、どうなんだァ?」
俺は、正直に頷く。
「正直、大好き」
「よし、謝りにいこうぜェ。手遅れだろうけど」
俺は顔を両手で覆った。
手遅れ。手遅れ辛い。
思い切り抵抗されて殴られた頬が痛い。
「帰ってきたら、泣いていいか。つうか泣いちゃう」
「泣いていいから、謝ってこいよォ。笑ってやるよ、失恋オメデトー」
俺は、肩をおろしたまま、ソファからおりた。
どう考えても、修復不可能の溝ができてしまった。
「じゃ、行ってくる」
「おう、いってらっしゃい。お土産は肉で」
「…失恋パーティ開いてくれるなら、パーティーボックス買ってくるわ」
「オッケ。仲間集めとく」
そうして、俺はセブンのたまり場に通う日々を手に入れたのであった。
毎日失恋パーティで賑わううちの連中は、きっと薄情であるに違いない。