そういうこともあらぁな



恋愛に関係があるのは、もしかしたら、地位や格などではなく、それらによって出来た環境の違いなのかもしれない。それが、認識や行動に違いを生み、誤解やズレができるのではないか。
高等部に上がるや否や呼び出され、セフレとして働くように言われ、俺は正直にシガに辛いと言った。そして止めようと言うと、シガはそれを嫌だと言う。
「いや、だがな、こういうのは……」
「なら、セフレはやめる。だから、側に居させろ」
願っても無い申し出だった。しかし、セフレで無ければ、いったいシガは俺と何になるのだろう。
シガにどう接していいかわからない俺は、シガとの関係にどうしても名前をつけたかった。
「なら、先輩後輩になるか」
シガが後輩なら、俺は後輩としてシガを可愛がればいい。ちょっとだけ恋心ゆえの下心が働くかもしれないが、今よりは断然いいだろう。
「……後輩になっても、遠かった」
「いや、後輩にするのは初めてだが」
俺の記憶の中で、シガが後輩だったことなど一度もない。そもそも、シガがいう遠いというのもよくわからなかった。
「メイ」
シガには呼ばれたこともない呼ばれ方に、何故か懐かしさを感じ、首を傾げる。今の今まで、シガは俺のことを呼んだことなどなかったはずだ。
「メイ……ッ」
シガが切なそうに、辛そうに、俺を呼ぶから、そんな疑問は今はどうでもいいと思える。俺の恋心は、どういう風に立ち回っても変わりなく、依然としてシガを一番大事にした。あのセフレになるきっかけの出来事と同じように、俺の恋心は大胆になる。
気がつくと、シガを抱きしめていた。
抱きしめられ、俺にしがみつくシガが心底可愛い。しかしそれ以上に強く抱きしめられて、痛かった。
「メイが、遠くなるなら、もう待たねぇ」
何を?という疑問を口から出す前に、俺は押し倒されてしまう。
今度は強かに背を木製のベンチにぶつけ、ただただシガを見つめるしかなかった。
何が起こったかよくわからないまま、高三、春、俺は童貞を失う。
本当に何が起こったかわからないが、シガがこう言ったのはよく聞こえた。
「……っ、責任はっ、とって貰う……!」
奪われたのは俺のような気もしたが、静かに涙をこぼし、それを拭いもしないで睨まれてしまうと、何も言えない。
俺は思う。
このズレは、果たして本当に環境のせいだろうか。
それとも、ズレに目を逸らし続け恋心を優先してしまったせいだろうか。
「……大事にする」
答えてから、どうして恋人になって下さいと言えなかったのだろうかと、自分自身の弱さを恨んだ。