シマのことはとても好きだ。
好きだというか、もう、食われてもいい。
毎日、主食にされてもいい。
それくらい、シマが好きだ。
シマが好きで好きで、好きすぎて、マジで性的に食われて、俺はビッチという言葉を実感した。
「こんな淫乱普通好きじゃねぇだろ」
「いや、好きな人が好きな人に対してビッチなら、気にしな」
「シマが俺のこと好きなわけねぇし」
シマが俺を食ってから数日。
俺はシマに会えないほど照れた。
挙句暴れて、落ち着くと、激しく落ち込んだ。
「いやいや、シマさんけっこ」
「だって、お前、今までご乱交を重ねてきたうえに、あっちには因縁勝手に付けた挙句、散々喘いで、喘ぐだけ喘いで、さらに暴れて帰ってきたんだぞ?」
「あー…うーん…そうっすね、普通ならね…」
そう、シマに好かれる要素が見つからない。
俺は激しく落ち込んだ。
シマは俺に散々なことをしてしまったと、毎日謝りに来てくれる。
俺は最初は照れて会えず、今はシマとの接点を切ることが嫌で会えずにいる。
「あー…シマに会いてぇ…」
「あってくださいよもー」
最近、俺の下僕どもがやたら悶々としている。
欲求不満か?と尋ねると、あんたじゃあるまいしとため息をつかれた。
「シマさんも男っすよ?男抱くシュミねぇっすから」
「じゃあ、二度と無理じゃねぇか!」
「いやいやいやいや、たったんだから、ちゃんすあ」
「ねぇよ!俺の訳わっかんねぇ、フェロモンとかいうやつにやられて血迷ったんだろ!」
「あー…うん…あー…」
いつもそうだ。
喧嘩相手をほぼ無理矢理引きずってくるのに、何故かやったあとは、相手はすっきりした顔をして礼すら述べてくる。
俺の人格は明らかに人としてどうかという領域にあるはずなのに、下僕どもには、特殊なフェロモンがそうさせているのだと説明される。
俺もそれを感じる時があるので、否定はしない。
有効活用さえしている。
だが、あんまりだ。
「シマは、シマだけは…あんなスッキリした顔で礼とか言わせない」
「いや、シマさん言わないっていうか…本当に申し訳なさそうにしてますし」
「俺の方が申し訳ないのにか…!」
俺のまわりがざわついた。
天変地異が起こると怯えるやつもいた。
それほどまでに、俺が珍しい言葉を口から出したのだ。
「もうとりあえず、あってくださいよホント、会ってください。そんで、そのフェロモンでメロメロにしちゃえば、シマさんとてイチコロですって」
俺はそうは思わない。
むしろあのとき、俺が、シマにメロメロでイチコロだった。
「無理、本当、無理」
「いや、無理じゃないすから…」
そうこうしているうちに、シマがたまり場にやってくる時間が来た。
「今日も無理だ。追い返せ」
そういうと、俺になんだかんだいってくるくせに、下僕たちはシマを追い返してくれる。可愛いものだ。
しかし、今日は様子が違ったようだ。
「え、シマさ…!」
俺のいる部屋のドアの蝶番が外れた。
ドアが情けない姿を晒す中、俺はシマを見上げた。
薄い笑みが張り付いているシマの顔に切り傷が出来ていた。
「よぉ」
そう言ったシマは、止めようとする下僕を蹴る。
吹っ飛んでいった下僕に、視線を向けることができずに俺はシマをただ見上げていた。
後ろからやってきたEのナンバー2が俺を見て、下僕どもを見て手を顔の前に立てたあと、苦笑した。
「今日は、ちょっと、色々あって…」
うちのナンバー2に事情を説明しているようであったが、俺はシマから目を離すことができなかった。
俺が座っている一人用のソファに気だるげに覆いかぶるようにしてもたれかかってきたシマは、俺の目を見たまま、笑った。
「わりぃけど、これ、かりるから」
「ごめ…ヘッド、なんかもう、ごめんなさい…」
「………ダメだ…ほんと、だめ…シマ…シマほんと…俺ほんと、淫乱…ビッチ……」
「あんなに、あんっっなに喘がされるとは、いや、本当、シマさん、絶倫で…ヘッド死んだと思いました」
俺が肩を落としていつもいる部屋とは違う部屋の片隅で膝を抱える。
今更、チームの下僕どもに対する恥じらいはない。
喘がせていても、喘がされていても、それは変わらない。
だが、俺があれほど乱され、喘がされ、あられもないというか、やった部屋に入れないほどになってしまうとは誰も予測し得なかったようだ。
「ヘッド、その、でも、あの、愛されてると…」
「愛されてるわけねぇって、アレはもうなんていうか……」
最初はもう、暴力かというような荒々しさで抱かれ、次第に気持ちよくなったかと思えば途方もないくらい喘がされた挙句、最後も暴力かというような快感で気を失う。
「シマ…本当、マジ好き…」
欲望が先立って仕方ないため、シマの人となりなんて分かりはしないが、毎日毎日謝りにきてくれるほど、俺とやったことは後悔してるし悪いと思ってくれているわけで、なんというか、本当に俺のようにどうしようもないやつではないというのはわかる。
「ああ、なんかもう、ヘッド、嫁にいってください…」
下僕が何か呟いた。
しかし、俺はシマにメロメロで気がつかなかった。