下心しかない


 なんだかんだ無理矢理押し切って志川とおつきあいを始めた。
「そろそろ志川も俺を好きになる頃合いか……」
「どうしてそうなる」
 生徒会長の権力の象徴でもあるやたらと広い一人部屋に、やはり無理矢理、志川を招いて、これもまた権力で夕食を配達してもらい、いただいた。権力とは素晴らしい限りである。
 そんな権力使いの荒い俺は志川の膝枕に頭を預け、だらだらしていた。
「まさか、志川。まだ俺の魅力に気がつかないというのか」
「気がつかねぇどころか、魅力とやらが一寸もみつからねぇよ。髪の毛ほどもねぇよ」
「貴重な髪がないではだめだ!」
 俺が一番年をとっていたとき、そう、幼稚園児に戻る前だ。いつまでふさふさであれるのか、上司の頭を見て恐怖したものである。
 大丈夫、遺伝子的には間違いなくふさふさのはずだ。恐怖をおしのけよく思ったものである。しかしどうだ。ずさんな生活をしていると、髪とて身体の一部である。いつか死に絶えてしまうかもしれない。
 志川の足は、男らしく筋肉と骨であまり脂肪はないが、暖かいし、いい弾力を持っている。
 すばらしい首、頭の預けどころだ。
 これを失うのは俺にとって、死活問題といっていい。そこでだらだらできない人生など、今更、考えることもできなかった。
 だから、体の健康、ひいては髪のためにだらだらするなというのは無理な話で、ではいったい何をすれば髪のためになるというのだろう。
 ストレスはおそらく志川の膝枕もあって、結構発散されている。
 食に気をつければいい話だが、会食など人と食事をせねばならない時以外は、好きなものだけを食べていたい。わがままな偏食家でもある俺に、食事で得られる健康など、たかがしれている。
 そうなるとサプリメントをかじるしかない。
 好きなように食って、サプリメントをかじる。すると、志川がさすがにそれはねぇよという顔をしてくるため、こっそり内緒でサプリメントを摂取するようになった。
 志川とは毎日いちゃいちゃするついでに一緒に食事をしたいのだが、出来ないのが現状だ。故に、こっそりサプリメントを齧るくらいはわけもない。
 志川の前でだけ、偏食を若干隠せばいいだけだ。すごく嫌いなものを志川の皿にのせるチャーミングさだけを見せ付けて、俺はこっそりサプリメントを齧っている事実を隠しおおせている。
 そうして騙される志川のなんと可愛いものか。体脂肪を気にし忘れて飯が進もうというものだ。
「そういう話じゃねぇよ」
 志川がため息をついた。
 そうはいうが志川もある程度年齢を重ねればきっと解るはずだ。
 髪の毛は女の命とはいうが、男だって命である。それにともなわなくても健康を気遣った気になってサプリメントをストックしてしまうのもいつかわかるだろう。
 だが、そうでないというのなら、もしかしたら俺のこのあふるる魅力について物申したいのかもしれない。
 髪と健康について少々思うところはあるが、志川のわからないものが俺の魅力というのなら俺は唇をとがらせてかわいこぶらないとならないだろう。
「じゃあ、俺の魅力が、あくまで解らないということか」
 そうしてかわいこぶったところ、嫌いなものが皿に出た子供のような顔をされた。俺は希代の悪女も傅くような美貌の持ち主であったが、可愛らしいや、柔らかい美しさとは無縁だ。色のついた眼鏡でもかけていないかぎり、妥当な反応である。
「その通りだ」
 それでも俺は、俺と同系統で俺よりも怖い顔をしている男前な志川を見上げ続けた。
「容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。将来性もあり、身長も高い。高学歴も、高収入も保証してやろう」
 こういえばすばらしい好物件だ。ふらふらと寄ってきてしまっても仕方ないといえるだろう。
「性格が悪い、やたら絡んでくる、生活力皆無、好き嫌いが激しい、身長が高い、意味が分からない、つうか、いうことが若干古い。あと、条件の全部が男好みといえねぇ」
 いうことが古いのは認めよう。むしろ、古式ゆかしいといって誉め讃えてくれてもいい。
 好き嫌いが激しいのも生活力が皆無なのもチャームポイントといえよう。しかも本当はもっと好き嫌いが激しいのを恋心で隠しているという可愛らしさだ。
 性格が悪いのはスパイスだし、絡んでしまうのは俺の恋心である。
 よく考えずともかわいいものではないか。
 確かにうっかり恋人と同じくらい身長が高いのはウィークポイントでもあるだろう。しかし、人のいいところとは悪いところでもあるというものだ。所謂長所であり短所であるというやつである。
 意味が分からないというのは、俺の方が意味が分からないことにしているから、潔く無視をした。
 しかし、このすべてをひっくり返す事実を志川はいう。
 そう、俺がいったことは、男としての好条件であって、志川の好みではないのだ。
 志川はこの学園では珍しく、男とつきあったことなどない。
 男が好みの範疇にはいないのだが、付き合えないわけではないだろう。しかし頻繁に学園からでている志川は、外で女をつくるくらい簡単だ。そうなると女をとる。
 今、俺に付き合っているのも学園だけのことであって、もしかしたらよそで女といちゃこいているかもしれない。
 つまり、俺は学園での現地妻みたいなものだ。
 なんだかエロくていい響きである。
「かわいいものじゃないか」
「かわいくねぇよ。なんでいい切れるかさっぱりわかんねぇよ」
 そういって志川が眉間にしわを寄せるため、男前な顔が二割り増しヤンキー顔だ。威嚇しても男前だからうらやましいが、余計に怖い顔になっている。




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