プロポーズは君から



「三年生って一人一部屋ですよね? 先輩方ってなんで同室なんですか」
「俺が獅守(しかみ)にプロポーズされたから」
「へぇ……え?」
 後輩の時が止まった。
 生徒会の雑用を手伝っていた俺は、不満を表すため獣のように喉を鳴らす。獣の身体に変化できるせいか、そういったことができなくはない。
「あれはそういう意味じゃねぇって何度言えば」
「家族になろうってのはプロポーズじゃねェのか」
「時と場合によるだろ」
 薄紙を重ね、さらに何重にも折ったものを、一枚一枚立て、花を作る。先ほどからその作業をずっとしていた。
「だいたいお前だって、一緒に暮らすってのはプロポーズじゃねぇのかよ」
「あれはちょっとした冗談も絡めてだ」
 俺と同じように生徒会の雑用をしていた狗倉(くぐら)は、花になったピンク色の薄紙を整え、それを上、下、横と確認して、平たい箱に入れる。
 入学式は、花を食べる種のために生花は使わない。匂うものは鼻の利く連中にも酷であるし、壇上には本物に良く似た造花が使われる。
 そして、入学式を準備する生徒会は、運動会や入学式で良く見かける紙の花を作ることを毎年課せられた。
 その手伝いを風紀委員会がするのも毎年のことだ。
 元生徒会役員や元風紀委員が手伝うのも毎年のことで、元役員と委員である俺と狗倉も手伝いに来ていた。
「つうか、もう少し花らしく紙たてろよ。なんでそんな一気に紙立てたみたいになってんだよ」
 先ほどから狗倉は俺が作った花を整え、花らしく直しては箱に入れている。それは文句も言いたいだろう。
「こういう細かい作業はむかねぇんだよ。大型だから」
「大型を何でも理由にしてんじゃねェよ、この不器用大雑把」
 いまだ俺たちの会話について来れない後輩が、手も時も止めている中、俺たちは花をつくる。
「そういうことを気にする辺りが小型だっていわれねぇか」
「いや別に。小型でもねェし」
「それもそうか……俺からしたらちいせぇんだけどな」
「それはお前がでけェだけだ」
 この学園に集う人間は、皆、人間の姿と獣の姿を持つ。俺ならばライオン、狗倉なら狼、ぼんやりしている後輩はヤマネコだ。
 二つの姿を持つと、どうしてももう一つの姿の性に引かれ、その性を社会で持て余すことがある。社会で浮かないように、辛い思いをしないように、もしくは活用できるようにするために、俺たちはこの学園で学ぶのだ。
「この姿なら、お前のほうが高いのにな」
「妖怪変化みたいなもんだし、関係ねェんだろ。もういいから、次よこせ」
「ん」
 俺の作った紙の塊を、狗倉がきちんと花に変えていく。こうして何のこともない顔をしている狗倉も、学園に入ってきた当初は大変で、だからこそ俺と同室になったのだ。
 狗倉は今も昔も他の気配に敏感すぎ、自分自身と同程度、もしくはそれより強いと思える獣が傍にいると落ち着いて寝ることができない。俺はありがたくも強いと思われており、敵ではないと思わせるために傍にいるのだ。
 三年生は狭いながらも皆一部屋ずつ与えてもらえるにも関わらず、俺と狗倉が同室なのは、そういった理由がある。
「いや、先輩、結局答えてませんけど」
「だから、プロポーズを……あー……あれは結局俺がしたのか?」
「お前がしたんだろ? 美味そうっつって」
「それか……違うやつかと思っていた」
 俺と狗倉が同室になったのは二年の時だ。狗倉が一年の終わりに転校してきたからである。それから、約一年ほどたっている今、狗倉は俺を敵と思うこともなく、俺の気配で眠れないこともなくなった。
 それでも同室であるのは、つまりはそういうことである。
「結局プロポーズなのかよ!」
 先輩に対する敬いを捨て、後輩が机に突っ伏した。
 薄紙が崩れ舞う中、俺は指を動かす。
「ちゃんと拾って作業もどれよ、意外とこの作業時間食うんだから」

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